チェルフィッチュ岡田利規トーク@早川倉庫レポート

2015.08.17

去る8月8日(土)〜9日(日)に早川倉庫(熊本)で行われた、チェルフィッチュ『女優の魂』。9日の公演前には、岡田利規によるトークイベントが行われた。チェルフィッチュが2005年に岸田國士戯曲賞(※1)を受賞してから10年。いまやチェルフィッチュは国内だけにとどまらず、国際的に活動するカンパニーとなったことは、多くの人が知る通りだろう。

岡田のトークでは、チェルフィッチュのここ10年の活動の紹介を通して、カンパニーが資金や公演機会を確保しながら存続していくための「新しい方法」が提示された。国内で作品を発表し続けたいカンパニーにとって、多くのヒントが含まれていた岡田のトークをレポートする。

岡田利規(©Nobutaka Satoi)
岡田利規(©Nobutaka Satoi)

はじめに

2011年の12月に『三月の5日間』という作品を上演して以来、3年半以上経ってまたこの早川倉庫で公演ができるというのが感慨深いです。今日はチェルフィッチュの作品をただ紹介するというよりは、「チェルフィッチュがどういう風に活動しているのか」ということをお話ししたいと思っています。

僕は生まれも育ちも神奈川で、生まれてからずっと神奈川に住んでたんですけど、2011年の7月の終わりごろに、家族で熊本市内に移住しました。それで、12月に『三月の5日間』を熊本で上演しました。

三月の5日間

チェルフィッチュ『三月の5日間』(撮影:横田徹)
チェルフィッチュ『三月の5日間』(撮影:横田徹)

まず『三月の5日間』というのがどういう作品か、ということをお話ししますと、これは2004年に初演を行いました。2003年に起こったイラク戦争を題材にしたもので、東京で若手が数団体集まるフェスティバルで上演しました。その作品が2005年に岸田國士戯曲賞という賞をいただいて、チェルフィッチュの活動が少しずつ認知されるようになりました。それから10年になるのですが、この10年は、10年前には予想もしていなかったようなプロセスを追ってきました。

2005年に岸田國士戯曲賞をいただき、2006年には東京で再演を行いました。これにはたくさんのお客さんが来てくれました。そのとき考えていたのは、「どうやってインパクトのある活動を続けられるか」「どうやってそのインパクトを少しずつ大きくしていけるのか」というようなことだったのですが、今思えばそれは、東京を中心とした演劇シーンの中だけで考えていたと思います。

その再演が、ちょうど国際的なミーティングの会期とかぶっていたこともあり、海外のフェスティバルのディレクターや劇場関係者などが観に来てくれていました。それで、2007年にベルギーのブリュッセルのフェスティバルに呼んでもらえることになりました。

クンステン・フェスティバル・デザール

2007年の5月、クンステン・フェスティバル・デザール(※2・以下「クンステン」)でチェルフィッチュで初の海外公演を行います。ここからクンステンとは深い付き合いが始まります。クンステンに呼ばれた日本のアーティストは、その10年くらい前にダムタイプ(※3)と勅使河原三郎(※4)さんが呼ばれてたんですけど、それ以来のことでした。クンステンでの公演は大きな反響を得て、そこでヨーロッパのいろいろなところから上演のオファーをもらいました。そういったことを経験して、2007年から少しずつ、ヨーロッパではどういう風に実験的な作品が活動していくのか、資金や上演の機会をどうやって得ているのかということを知っていきました。簡単に言うと、ヨーロッパのフェスティバルや劇場は、作品をつくるための資金を提供する仕組みがあるのです。作品をつくると、そこにフェスティバルや劇場の名前がクレジットされます。それが重要なステータスになるのです。

フリータイム

チェルフィッチュ『フリータイム』(撮影:佐藤暢隆)
チェルフィッチュ『フリータイム』(撮影:佐藤暢隆)

それで、ブリュッセル、パリ、ウィーンのフェスティバルの共同製作という形で、2008年に『フリータイム』(※5)という作品を発表しました。このやり方に活路を見出しました。国内だけだと充分に資金や公演の機会を得るのが難しい、いまだに難しいのですが、こういうやり方があるのかと思いました。ダンスなどのカンパニーではこういうやり方をやっているところもあるようですが、演劇では先例がなかったので知りませんでした。知らなかったやり方を、2007年から身をもって知っていった感じです。

1〜2年に1回のペースで新作をつくり、日本で初演したあと、主に海外でツアーをして回していくことで、公演機会や対価を得てカンパニーとして存続していく。今に至るまでチェルフィッチュはそうやって活動している。今日は、こういう道もあるんだということをお伝えできたらと思って話しています。

地面と床(ドキュメントを見ながら)

チェルフィッチュ『地面と床』(撮影:清水ミサコ)
チェルフィッチュ『地面と床』(撮影:清水ミサコ)

『地面と床』(※6)という作品の初演をベルギーで行った際の話をします。この作品は9つのフェスティバルや劇場との国際共同製作になっています。(このほか、『地面と床』初演時の仕込み〜上演までのドキュメントを見ながら、具体的なエピソードがいくつか紹介された)

近年の活動

最初は初演は国内でやっていたんですが、最近は初演がベルギーやドイツなどの海外になることも増えてきました。一方で、国外での活動といっても主にはヨーロッパであって、たとえばアジアのクリエイターたちと出会うのもヨーロッパが多いんですが、その現状を変えていこう、アジアのネットワークを作っていこう、という動きは最近、始まっています。

アジアの流れで韓国の話をすると、韓国との共同製作で新作(※7)をつくっています。9月下旬に光州(ガンジュ)にできるアジア文化殿堂(Asian Arts Theatre)というところで、オープニングプログラムのひとつとして上演されます。

アジアのフレームの中で活動することも考えたいと思いながら、マーケットとして成立しているヨーロッパで糧を得ていく、そうやって生き延びていく、ここにエネルギーを注いできました。このやり方だと自由が確保できるという感覚があります。国内で演出家個人として呼ばれて仕事をすることもあったんですけど、それよりも海外とのコネクションを根拠にして、つくりたいものをつくる方がたのしかった。

こういうやり方を、僕らよりも若い世代に対して紹介する、道を示すこともやりたいという気持ちが芽生えてきました。これまで正直そういうことはできていなかったと思うので。こういうやり方もあるんだということが認知されていないと、国内で仕事をするときに齟齬が起こったりもするんですよね。

僕らよりも若い世代のひとたちを見ていると、なんというか野心を持つようになったような気はします。そういうひとたちに、やり方のひとつとしてこういう道もあるんだというのを知ってもらいたいと思っています。

質疑応答

ー初演を日本で行う場合と海外で行う場合とで、違うところはありますか?

……あります。というか、心構えが変わるようになりました。いまは日本で初演しても海外で初演しても、「いずれ外国に行く」ということを意識するようになりました。

ー海外のフェスティバルなどとの共同製作のときに、なにか口出しをされることもありますか?

「お金も出すけど口も出す」みたいな、悪い意味で口出しをすることはありません。むしろ作品のクオリティを維持する、高めるためにインスピレーションをくれることがほとんどです。

ー僕は飛行機は苦手なのですが、岡田さんは平気ですか? というのは、今日は海外のフェスティバルなどとつながりを持って活動することのメリットの部分を伺ってきたわけですが、海外での活動をベースにするとなると、どうしても飛行機での移動など、肉体的な労力も伴うわけです。そういった、フィジカルな意味も含めてのコストやリスクなどを教えていただけますか?

僕は飛行機は苦手ではないです。ただ、作品を上演するときは、僕ひとりが移動するわけではないので、メンバーの中には、飛行機が苦手なひともいます。そういうひとには、我慢してもらうしかないんですが……。

コストやリスクは2つあって、ひとつは「政治的情勢」、もうひとつは「為替」です。為替は、いまは円が安くなっているので、ユーロなんかで支払われるとお得になるんですが。政治的な情勢について言うと、今度中東のベイルート(レバノン)に行くんですが、まあ安全だと思ってるから行くわけなんですけど、やっぱり中東というと危険なイメージもあるし、シリアなんかだと行かないでしょうし。そういうリスクはあります。ただ、僕にとっては「国内でしか仕事がない」という方がリスクに思えて、海外での活動は「リスクを分散している」というイメージですね。

ー日本と海外とで反応の違いはありますか? また、その反応を受けて、つくり方に影響は出てきましたか?

「日本と海外とでは反応はそんなに変わらないと思いたい」というベースがあるんですけど、それでもやっぱり違いはあります。チェルフィッチュの作品は日本の言葉で、日本の現状を背景としてつくられているんですが、「言葉がダイレクトにわかる/わからない」「前提となる状況を知っている/知らない」という違いがあるので、やっぱり反応も変わってきます。前提を共有できないからこそ、海外のひとたちの方が食いついてくれることもあって、そのなかで上演が鍛えられるという感覚があります。

最初に海外に行って感じたのは、自分の作品がとても日本的なもの、エキゾチックなものとして受け入れられるということで、それがはじめは嫌でした。ただ、エキゾチックに見られることを拒絶しても、作品に悪い影響を与えるんです。素直に出したいものを出せなくなってくるので。


海外の活動に創作のベースを置くチェルフィッチュの背景には、「つくりたいものを自由につくりたい」という純粋な創作欲求があった。岡田のトークからは、海外の資金と機会提供を担保した作品製作環境のみならず、いまだそれを担保できない日本での現状までもが浮き彫りになった。

野心的に作品をつくり続けたいと考える作家・カンパニーは多いが、そんな作家・カンパニーにとって、チェルフィッチュ・岡田利規が提示した新たな道は、じゅうぶんに未来のある話だと思う。演劇の地平をいまなお切り開くチェルフィッチュの今後に期待するとともに、日本から海外に創作ベースを置くカンパニーが新たに現れることも期待したい。

チェルフィッチュは引き続き『女優の魂』国内ツアーで佐賀、沖縄、東京を回るとともに、8月23日(日)には、新作パフォーマンス『わたしは彼女に何もしてあげられない』をおおいたトイレンナーレ2015で発表する。近くにお住いの方は、ぜひチェルフィッチュの「いま」を見届けてほしい。

構成・執筆:藤本瑞樹(kitaya505)

※1)岸田國士戯曲賞
「演劇界の芥川賞」とも言われる、劇作家の登竜門とされる演劇賞。

※2)クンステン・フェスティバル・デザール(Kunsten Festival des Arts)
ベルギーのブリュッセルで毎年5月に開催される現代舞台芸術フェスティバル。先鋭的なプログラムが上演され、世界初演の作品も数多くあることから、世界中のフェスティバルディレクターが注目するフェスティバルとなっている。

※3)ダムタイプ
1984年、京都で結成されたカンパニー。結成当初はビデオアートやコンテンポラリーダンスに分類されていたが、いまではその作品はメディアアートとして捉えられている。

※4)勅使河原三郎
ダンサー、振付家、演出家、俳優。既存のダンスの枠組みを超えた新しい表現を追求し、あらゆるアートシーンで高く評価されている。

※5)『フリータイム』
2008年初演。ある女性が毎日の出勤前に過ごすファミレスでの30分を描く。

※6)『地面と床』
2013年初演。近未来の日本を舞台として、死者(幽霊)と生者を描いた作品。

※7)新作
『God Bless Baseball』。日本と韓国の国民的スポーツである野球をモチーフとして、日韓の背景に常に見え隠れするアメリカという大きな存在を浮かび上がらせる。


チェルフィッチュ『女優の魂』佐賀公演

原作・演出:岡田利規
日時:2015年8月19日(水)17:30☆/20:30
   ☆アフタートークイベント「女優・佐々木幸子のQ&Aコーナー」あり
会場:Pub & LiveSpace FRONTIER(佐賀市愛敬町4-8 紅屋館ビル3階)
料金:一般2,000円(当日2,500円)
   学生1,500円(当日2,500円)
   高校生1,000円(当日2,500円)
   ※学生・高校生前売は要証要提示・枚数限定
   ※別途ドリンクオーダー500円

チェルフィッチュ 新作パフォーマンス公演『わたしは彼女に何もしてあげられない』

作・演出:岡田利規
日時:2015年8月23日(日)15:00/17:00/19:00
会場:府内珈琲(大分市府内町2-2-18)
料金:無料
定員:各30名

【関連サイト】
チェルフィッチュ

※情報は変わる場合がございます。正式な公演情報は公式サイトでご確認ください。

このエントリーをはてなブックマークに追加
Pocket