枝光まちなか芸術祭レポート

2015.11.08

北九州市八幡東区枝光本町にある「枝光本町商店街アイアンシアター」。その名の通り商店街の中にある、銀行跡地を利用して設けられた民間劇場だ。2009年に劇場としての運営を開始し、以来、枝光という街と密につながる劇場として注目され、全国各地の劇団が利用してきた。一度利用したことのあるカンパニーからは「枝光にまた来たい!」という声も多く聞かれ、劇場が枝光という街とともに愛されてきた。

経済産業省の補助金を受けたことで、2014年末に大規模な改修工事に着工、約半年の工事を経て、2015年6月にリニューアルオープンした。北九州の舞台製作会社の全面的なバックアップにより、機材などのハード面だけでなく、空間面の充実も図り、もともとが銀行であったと思えないほどの劇場空間ができあがった。

まずは今年6月のリニューアルオープンを前に、今後同劇場をどのように運営していきたいかを尋ねた「株式会社枝光なつかしい未来」の鄭慶一のインタビューを紹介したい。

鄭慶一インタビュー

ーまずは改修に至った経緯を伺えればと思うのですが。

これまでハチャメチャやってたので(笑)。そのツケがいろいろとあって。これから稼働を増やすことを考えるなら、いっぺんに改修した方がいいよというお声かけがあったのがきっかけです。

ー半年の改修期間、いろいろと考える時間もあったんじゃないかと思うんですが、今までの劇場運営をどう捉えましたか?

劇場の利用の仕方としては、舞台芸術の発表が主にはなってくるんですけど、この何年かで、僕自身はあまりそっちにばかり傾倒しないようにしようと思うようになりました。というのも、結局は地域の方の協力がないとやっていけないんですよね。完全防音でもないし、近所からのクレームが来たら終わりなので。カンパニーによるお芝居での利用だけでなく、この地域の方々に利用してもらうとか、利用してもらわなくても何かの会場として使ってもらうとか、そういうことがないと運営は難しいだろうなあと思っていまして。なので、僕が地域でいろんなことをやっているのと、劇場でいろんなことをやっているのを「分けよう」と思ったんですね。

なんかよく「地域に芸術を!」「アートを!」みたいなのを聞きますけど、そういうのはあんまり大事じゃないなあと思っていて。別にひとは芸術がなくても生きていけますからね。まああればより豊かかもしれないですけど、というくらいで。なので、地域のなかでは「アイアンシアターの鄭くんだ〜」「普段なにやってるかわからないけど〜」くらいのスタンスで仲良くさせていただいてて、で、「その鄭くんがやってるのが芸術なんだね」「アートなんだね」「お芝居なんだね」みたいな順番で知ってもらえればいいなあ、という感じで、この何年間かはやってきてました。

ー今まではそのあたりがごっちゃになっていた、という認識なんですか?

そうですね。地域にダイレクトに芸術を持ち込むときに、「地域に対する誠意」ということを考えたんです。つまり、「枝光」という名前を使うということに対して、たとえばお客さんはその芸術で触れた枝光の一面を「これが枝光なんだ」と思ってしまうけど、その作品からは見えない、そうじゃない部分ももちろんある。また、地域にダイレクトに芸術を持ち込むことをよく思ってないひとたちもいる。よく思ってないことが悪いことかというと、そうではないと僕は思うんですね。人間だから悪く思われることだって普通にあることじゃないですか。そういうことを、たとえば演劇や芸術がディレクションしちゃう、間引いちゃうというのは地域にとって誠意のあることではないなと思ったので、なるべく切り離そうと。地域の人たちが求めれば、芸術を持ち込むということも可能だと思いますけど。

ーリニューアルオープン後の劇場としての展望をお聞かせください。

それがですね、恐ろしいくらいになにも考えてないんですよ(笑)。誰に訊かれてもすごく正直に答えてるんですけど。改修工事を自分たちでもやってたので、忙殺されてて何も考えてなかった(笑)。これからどういう使われ方をするのかもわからないですし、これは僕自身の性格でもあるんですけど、「こう使って」「ああ使って」みたいなのを言わないようにしてるんです。利用される方々が自由にこの劇場のディレクションをやってくれていいと思っているので、ほんとにいい意味で……って自分で言っちゃうんですけど、いい意味で何も考えてないです。「これをやる」みたいなことは決まってるんですけど、「どういうふうにする」というのはあまり決めてないです。

ー貸館がメインになるんですか?

そうですね。収入としては貸館がメインになります。そのくらいです。訊き甲斐がない感じのインタビューになっちゃってほんとに申し訳ないです……。

ー(笑)じゃあベタベタですけど最後にPRしたいことなどあれば。

今年もまちなか芸術祭をやるんですけど、あれが去年すごく楽しくて。舞台芸術のことをあまり知らないふたり(※1)がプロデュースした芸術祭なので、とにかくもういろんなことを無視して、お客さんもアーティストもただただ疲れてでもはちゃめちゃ楽しい、という感じなんですけども(笑)、今年はより疲れさせようと思ってます。日程は去年同様3日間のままで、参加団体とプログラムを増やして、お客さんも増えるだろうという目算があるので、もうちょっとはちゃめちゃしたいなあと思ってます。

枝光まちなか芸術祭レポート

リニューアルから4か月。すでにさまざまな団体が利用し、劇場空間としての利用のしやすさが格段に上がったという声も多数聞いた。そんななか、自主事業である「枝光まちなか芸術祭」が今年も行われた。

枝光まちなか芸術祭を一言で言い表すなら「渾然一体」だろう。全国各地から集まったアーティストが、アイアンシアターのみならず商店街のなかや神社など、所構わず暴れまくる。観客、商店街のひとたち、アーティストといった垣根もなく、その場にいる全員がぐちゃぐちゃになる3日間。そこには「芸術で街を元気に!」とか「地域の振興のために!」「アートで何ができるのか」といったお題目はなく、ただただ舞台芸術を使って楽しもうという純粋な想いがあるだけだ。そんな枝光まちなか芸術祭で10月11日に行われた、鳥公園『火星の人と暮らす夏』に足を運んだレポートをお届けしたい。

枝光まちなか芸術祭の様子

去る10月11日、枝光本町商店街で行われている「枝光まちなか芸術祭」へ出掛けた。お目当ては鳥公園の『火星の人と暮らす夏』。会場はなんと商店街の道のど真ん中。普段は車が行き交う場所が、歩行者天国になっていた。舞台として設定された場所にはテーブルと椅子が置いてあり、客席部分にもパイプ椅子が並んでいる。

会場に到着したころ、アイアンシアターで公演を行っていた即興コメディパフォーマンス集団「6-dim+(ロクディム)」を見終わったお客さんたちが、鳥公園の公演を観ようと、ゾロゾロと商店街に流れこんでいた。鳥公園の公演の後も、Baobab、安次嶺菜緒+、ダンコレ! と公演が目白押しのスケジュール。演劇祭には通し券も準備されているので、1日でいくつかの公演をはしごするお客さんも多そうだ。

しかし、会場が野外とは。この日はいい天気ではあったが、もし雨が降ったらどうしていたんだろう? 傘を差して観劇することになったんだろうか……? なんでもあり。そんな雰囲気が漂いまくっていた。

お客さんたちは思い思いの席に座る。商店街のアーケードの下に置いてあるベンチには買い物帰りのお婆ちゃんたちが座っている。垣根のない会場。垣根のない空気。空は高く、背後からはスペースワールドで絶叫マシンを楽しんでいる人々の嬌声が聞こえてくる。

観劇といえば劇場の閉塞的な空間で、何かしらかしこまった雰囲気をまとって観るのが常なのに、この開放された雰囲気はとても心地いい。他のお客さんも商店街で売っているから揚げなどをつまんだりして、開かれた空間の自由さ加減を楽しんでいるようだ。この場所にしかない空気感を感じて、今日ここに来て良かったなと思った。

参加者もお客さんたちも、それを取り巻く商店街の人々も、垣根を取り払ってこの秋晴れの空の下で、一日中たっぷりとパフォーマンス、演劇、ダンスなどの芸術に関わることが出来る。こんな贅沢な芸術祭は他ではお目にかかれない。今後も是非続けて欲しいと心の底から思った。

執筆:藤本瑞樹・北村加奈子(kitaya505)

※1)ふたり
「株式会社枝光なつかしい未来」の鄭慶一と高橋夏帆。このふたりが中心となって、枝光本町商店街アイアンシアターを運営している。

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