花習舎・「カシューナッツ」インタビュー

2015.11.17

熊本市を走る市電の東側の終点「健軍町」。ピアクレス(健軍商店街)を右手に1分ほど歩くとそこに、12帖ほどのアトリエ「花習舎」が見える。熊本市を拠点に活動する劇団「ゼロソー(※1)」が今年設立した、稽古場兼劇場スペースだ。10月25日(日)のプレ公演『百鬼夜行』を皮切りに、1か月強に及ぶ「カシューナッツ#1 12帖演劇祭」が行なわれている。11月末まで行われている「カシューナッツ」の最中、Kash-nuts!推進委員会の松岡優子(Sulcambas!)、青谷一郎、河野ミチユキ、吉丸和孝の4人に、花習舎と「カシューナッツ」、ひいては今後の展望について話を聞いた。

「カシューナッツ #1~12帖演劇祭~」ロゴ

花習舎を立ち上げた経緯

—まずはこの「花習舎」を作った経緯を教えてください。

吉丸 もともとゼロソーが稽古場を持っておらず、いろいろな公民館などを借りて稽古をしていたので、常設の稽古場がほしかったんです。最近熊本のいろんなところで演劇をするスペースが増えてきて、並木坂に334スタジオ(※2)っていうのがあったんですけど、そこを劇場として使ったのがきっかけで、自分たちでもスペースを探してみようかなと思ったのが始まりです。そこ(334スタジオ)で使った機材をどうするか、荷物をどうするかみたいな問題もあって。松岡さん家に持って行ったりとかもしてたんですけど、ずっと家に置いとくのもなあ……って。で、あちこち物件を探してたら、いまお世話になっている不動産屋さんがすごくよくしてくださって、料金も良心的で、サービスで駐車場や隣の倉庫も貸してくださったりとかして。地理的にも、市電で一本で来られるというのも大きくて。で、この物件にゼロソーのみなさんが賛同してくれて。
松岡 ゼロソー的には稽古場がほしいというので吉丸が探していて、なおかつ劇場としても使える場所がいいというのを最初から念頭に置いてたんです。それと、現在の状況を見ると、いろんな劇団さんが東京とか北海道とかからもツアーで熊本に来てくださったりしてて、県外から来てくださる劇団さんたちがもっと公演しやすくなるような環境をつくれないかというのをちょっと考えたりして。たとえばツアーだとどうしてもホテル代がかさんじゃう。だったらもういっそのこと劇場に泊まれるんだったら、宿泊費がだいぶ抑えられて、県外からくる団体さんもひとつハードルをクリアしてもらえるんじゃないかな、みたいなことを考えるうちに「じゃあ劇場をやってみたいね」「いろんな劇団さんに来てほしいね」という方向になって。
河野 この施設の環境(※3)でやってもいいよというひとは、どんどんやってください、という。
吉丸 演劇だけじゃなく、ジャンルを問わずですね。
青谷 東京のこまばアゴラ劇場(※4)もそうじゃないですか。上に泊まれたりして。そういう風になればな、と。
河野 花習舎は基本的にはワンフロアですけど。劇場に泊まって、そこで公演もして、みたいな。

花習舎に上がる入口部分

—花習舎という劇場をつくろうという話がまとまり始めたのはいつごろのことですか?

河野 まずこの物件を借りたのは、去年の7月です。それからしばらくはゼロソーの稽古場として使っていて、12月くらいから劇団協議会主催の『義務ナジウム』(※5)の稽古でしばらく使ってたんですよね。具体的に動き始めたのは年が明けて……その稽古が終わってから、3月くらいからですね。
松岡 それからどうにか今年度から貸館みたいなことができないかといろいろ準備を始めて。
吉丸 棚作ったり。
河野 貸館も含めていろんな事業しなきゃなっていうのが、結局ここの維持費を捻出しなきゃというのがあったんで。
吉丸 3月以降に大量に木材を買ったりして。
松岡 夜な夜な木材に色を塗ったり、壁紙を貼ったり、タイルを貼り替えたり……。
吉丸 棚作って、靴箱作って、カウンター(※6)までできたり。
河野 まだ作ってる最中ですけどね。演劇祭をやりながら徐々に整えてやっていかなきゃいけないと思ってますけど。

劇場内。不思議少年が公演の準備をしているところ

—「○月オープン目標!」みたいな感じで作業を進めていたんですか?

松岡 まず「フェスをやりたい」っていうのがあって。フェス……今回の「カシューナッツ」ですけど、じゃあそのフェスをこの時期にやろうっていうので、それに向けて準備した、という感じです。

—「フェスやりたい」ありきで劇場を作っていった、という感じですか?

松岡 そうですね。どうにかヌーヴェルヴァーグ(※7)ももらえて。それがなかったら厳しかったですね。
吉丸 お芝居の公演をやったのは、「カシューナッツ」が初めてです。

—花習舎としてのオープンはいつだったんですか?

松岡 なんかくす玉割ったよね。
河野 目標は4月オープンとか最初は言ってたけど。
吉丸 まあ一応4月にくす玉割りましたからね。

—くす玉は4月に割ったぞ、と。

全員 (笑)
吉丸 そのあとも人狼(※8)をやったりとか。
河野 団体に利用してもらうっていうのはまだなかったから、この「カシューナッツ」が事実上のオープンということになりますね。

カシューナッツ

—さっき「フェスをやりたい!」というところからスタートした、と言われてましたが、そもそもなぜ「フェスをやりたい!」と思ったんですか?

松岡 去年の秋ごろ「演劇大学(※9)」に参加して、その中で「一座で先輩に相談する」という企画があって。小さな劇場屋さん(※10)に関わっている高橋さん(※11)から声をかけていただいて、「ゼロソーとして誰かに相談しないか?」というお話をいただいて。で、韓国の朴章烈(※12)さんに相談に行ったんです。劇団の今後の話をいろいろして。「もっと社会的に必要とされる活動をしていった方がいい」というアドバイスをいただいて。たとえばフェスをやるとか。それは演劇に限ったことではないんですけど。そういう話を聞いて、「フェスかあ」というのがちょっと頭のなかにあって。

客席内では飲食可能。2階ではポップコーンをつくって販売している

—こういうフェスティバルにしようというイメージはあったんですか?

河野 「12帖演劇祭」と銘打ってることからもわかる通り、キャパを20名に決めようというのは最初に言って。
吉丸 あと「1か月間毎週末に演劇をやっている」。
青谷 それと「気軽に来ていただく」ということですね。熊本は「劇場」という場所が少ないんですよ。こういう常設の劇場があれば、一般のお客さんももっと気軽に来られるんじゃないかなと。
吉丸 「ここにこういう劇場があるんだ」と認知してもらう、というのもフェスティバルの目的として掲げていましたね。劇場の前で「カシューナッツ」の呼びかけをしていると、みんなが上を見て(※13)「あ、ここにこんな劇場があるんだ」という反応をしてくれる、というのは新鮮だったし嬉しいですね。
青谷 ここは熊本市内でいうと東側の、市電の終点で、市街地まで市電で30分くらいかかっちゃうんで、こっち側に住んでいる方にとってはすごくよかったみたいですね。
吉丸 こっち側はダンス教室なんかはいろいろあるんですけど、なかなかそういったものの発表の場がなくて。
松岡 いろんなマスコミにも取り上げていただいて、いますごく街の方々に歓迎していただいているなと思います。
青谷 「応援してるんだよー」って言いに来てくれる方もいたりして。
吉丸 商店街も、アートや芸術でまちおこしができたらと思ってくださっているみたいです。
松岡 あと嬉しかったのが、「小さな劇場屋さん」が商店街のあちこちに遊びに行ってくれてて。「靴が500円で売ってたよー!」とか、そういうのを山田恵理香(※14)さんがすっごく喜んでくださって。みんなパン買ったり(※15)とか。
吉丸 ブックオフに掘り出し物を探しに行ったりとか。

—「カシューナッツ」が始まって、どういう発見がありましたか?

松岡 街の人たちが結構ふらっと来てくれるんだな、というのにびっくりしました。最初は全然そういうのはないだろうなと覚悟してたので。あと、狭い空間だからこその、終演後の交流が密に行われる感じがうれしいですね。
河野 協力してくださっている不動産屋さんが、テレビが取材に来るということを知ってすごくびっくりしたり。不動産屋さんも喜んでくださってるんだなあー、みたいな。

今後の展望

—まだ「カシューナッツ」も中盤戦ではありますけど、「カシューナッツ」以降の今後の展望はありますか?

松岡 「カシューナッツ」は年1回のペースで続けていきたいと思っています。いまは商店街の方々とも関係を築いている最中ですが、ゆくゆくは連携してやっていけないかなあと。同じことを商店街の方々も思ってくださってもいて。演劇だけじゃなくて、音楽も美術も加わって、シャッターが閉まっているところを開けていけたらいいなあって。
青谷 関連企画のワークショップとして、殺陣講座の発表を商店街の中でやろうという話もあったんですけど今回はできなくて。できれば2回目3回目の「カシューナッツ」ではそういうこともやれたらなと思っています。
吉丸 演劇だけじゃなく絶えずいろいろなイベントを考えながら、この会場でできることは発信していきたいと思っています。人狼ゲームもやってますけど、そういう感じで演劇と関係ないイベントもやっていけたらなと。
松岡 「カシューナッツ」でも、県外から来る劇団さんがもっと来やすくなるように、制作面でのお手伝いができたらなあと思っています。不思議少年(※16)さんともちらっと話してたんですけど、キャパが少ないからこそ、じゃあロングランで1か月とかやってくれるような劇団がいないかなあ、と。せっかくなんで2〜3回の公演じゃなくて、たくさんやって、それを観ていただける機会が増えればいいなと思っています。
河野 アーティスト側も、ロングランをやることで得られるものもやっぱりあると思うので。
青谷 「毎日なにかやっている」という環境にしたいですね。

—「発表する場所で創れる」というのは花習舎の強みかもしれませんね。

松岡 貸館が正式に始まったら、時間で区切るルールはできると思うんですけど、やっぱり稽古でいいものが出てくるのって、退館直前の21時半くらいとかだったりするじゃないですか。そういうときに状況を見て対応できればとは思ってますね。

ご飯がつくれます!

—花習舎を使ってみたいと思っている団体や、今後の「カシューナッツ」に参加したいなと思っているところへのアピールがあればお願いします。

河野 ご飯がつくれます! 小さな劇場屋さんは高橋さんが作ってて。今回不思議少年さんはスタッフもご飯は食べるんで、つくったものを「どうぞ〜」って言っていっしょに食べてたんですけど。
吉丸 「いっしょにつくって食べましょう」って言われたら、いっしょに食べたいなと思いますね。毎回食事のサービスができる、ってわけではないんですけど。食べに行くよりコストはだいぶ抑えられると思うんで。
河野 今回学祭みたいで楽しかったですね。
松岡 なんかね、楽しいね。
吉丸 「今日は誰がつくった味噌汁だ?」みたいな。

スタッフが作った食事を劇団もいっしょに食べた

—いい雰囲気でしたね。

河野 その雰囲気を持った劇場を運営し続けるためにも、明確な、年ごとに更新できる目標みたいなものは必要だろうし、あと、できるだけ長く続けたいという気持ちはあるんだけど、たとえば3年、5年っていう節目をきちんと見据えないといけないなとは思います。

大好評のスパイス「ガネーシャ」。ゼロソーが販売している

—「花習舎を使ってみたい!」というひとはどうすればいいですか?

全員 ぜひ気軽にお問い合わせください!
吉丸 まだ貸館も正式には始まってないんですけど、料金もある程度決まりつつあるんで。
松岡 12月頭までは公演が決まってるんですけど、それ以降は。
河野 年明け以降は、お問い合わせはちょっとだけありますけど、全然決まってないんで。熊本にツアーで来たいって方がいらっしゃったら、ぜひお気軽にご相談いただければ。
吉丸 演劇以外でも、「こういうイベントがやりたい!」っていう相談でも全然構いません。
松岡 今日話に上がってたんですけど、「アイドルのイベント会場の聖地にしたい」って。
吉丸 健軍文化ホール(※17)が聖地らしいんですよ。でもちょっと広いので、ワンマンだったらこのくらいだとちょうどいいかな、と。
河野 20人くらいなら大丈夫(笑)。
青谷 アイドルに詳しいやつがいろいろ語っていって。「熊本のアイドル事情は弱い!」と。
吉丸 アイドルイコール経済! みたいな感じでしたね。


「カシューナッツ」でいよいよ本格的に劇場としてのスタートを切った花習舎。劇団が運営することもあり、利用する側にとってありがたい配慮が行き届いているという印象を受けた。客席内は飲食自由で、劇場の下の2階ではドリンクやポップコーンの販売もあるなど、アットホームな場作りをしている。まだまだ現在進行形で劇場作りを進めているところではあるが、劇場空間としてはすでに一通りの設備は整っており、公演を行うのに不便を感じることはない。花習舎が今後、熊本県東部の文化拠点のひとつになることに期待したい。

インタビュー・構成・執筆:藤本瑞樹(kitaya505)

※1ゼロソー
2001年より熊本市を拠点に活動する劇団。“空気感”を大切にした繊細な劇世界は、目や耳に働きかけるだけでなく匂いをも感じさせると定評がある。2015年春に、常設の稽古場兼劇場となるアトリエ花習舎を設立。11月20日(金)〜23日(月・祝)には『ゼロソーの嫉妬(ラ・ジャルジー)』を上演する。

※2)334スタジオ
熊本市中央区上林町にある「並木坂334スタジオ」。熊本県内の演劇団体が作品発表の場としても使用していた。ゼロソーの所属俳優でもある松岡優子もここで、2014年に『つれなのふりや すげなのかおや』を上演している。

※3)この施設の環境
12帖というスペースのため、表現に制約が出てくる可能性もある。

※4)こまばアゴラ劇場
東京都目黒区駒場にある民間劇場。劇場の上に稽古場スペースを併設しており、稽古場スペースには宿泊することも可能。

※5)劇団協議会主催の『義務ナジウム』
作はゼロソーの河野ミチユキ、演出は古城十忍。2015年1月に熊本・東京で上演された。

※6)カウンター
音響・照明ブースとして利用できるカウンター。

※7)ヌーヴェルヴァーグ
「ヌーヴェルヴァーグくまもと」という名称で知られている、熊本県内の芸術文化の振興を図るための助成金。正式名称は「新たな芸術文化発掘事業」。

※8)人狼
人狼ゲーム。村人に化けてひとを食べる狼を当てる心理戦ゲーム。

※9)演劇大学
日本演出家協会による、若手演出家育成プログラムのひとつ。福岡だけでなく、全国各地で実施されている。

※10)小さな劇場屋さん
福岡を拠点に活動する、劇作家・演出家・制作者によるユニット。「カシューナッツ」では『ぶらぶら人形ものがたり』を上演した。

※11)高橋さん
福岡を拠点に制作者として活動している高橋知美。

※12)朴章烈
韓国の演出家。ソウル演劇協会会長。

※13)みんなが上を見て
花習舎は、ビルの3階部分にある。

※14)山田恵理香
小さな劇場屋さんで演出を務めたほか、空間再生事業 劇団GIGA(福岡)でも活動している演出家。

※15)みんなパン買ったり
近くに塩パンで有名な美味しいパン屋がある。

※16)不思議少年
熊本を拠点に活動する劇団。今年3月には「劇王 天下統一大会2015」日本一になり、さらに日本演出者協会による「若手演出家コンクール2014」において優秀賞・観客賞を獲得した。

※17)健軍文化ホール
熊本市健軍文化ホール。293席の固定席があるホールのほか、音楽室、会議室、パーティールームなどがある。

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