池田美樹(劇団きらら)『ガムガムファイター』インタビュー(前編)

2015.12.03

去る11月11日(水)〜17日(火)に熊本での公演を終え、来る12月5日(土)〜6日(日)の福岡公演に向けて稽古真っ只中の劇団きらら。熊本公演仕込み中の楽屋に赴き、新作『ガムガムファイター』初日前の心境や、今回の客演陣についての印象などを、作・演出の池田美樹にインタビューした。2回に分けて掲載する。

※写真は劇団きらら『ガムガムファイター』熊本公演(撮影:劇団きらら)

オニムラルミのファイトがみんなを幸せにする物語

―さっき楽屋で、今回とうとうオニムラさんは、幸せになるどころか死んじゃってた(※1)という話をしていたんです。

前回の公演で3〜4枚くらいアンケートに書いてあったんですよ。「オニムラさんを幸せにしてあげてください」って。じゃあ今回はそうしようと思って。……「百円の恋」(※2)って映画観てないかな? 安藤サクラのやつ。

―観てないですね。

安藤サクラ主演のすごくいい映画なんですけど。んで、るうちゃん(オニムラ)ってファイトをいつも持て余してるんだけど、その「百円の恋」みたいに、るうちゃんのファイトがみんなを幸せにする話が描きたいなあって思って。で、もうひとつキーワードになったのが「ブルーハーツ」。あるとき仕事の流れで久しぶりにスナックに行ったら、40〜50歳のおじさんグループがずっとブルーハーツ歌ってて。もーひたすらカッコ悪い(笑)。ブルーハーツって「大人がクソ」「世間がクソ」とか歌ってるんだけど、10代20代でそういうこと歌ってた人たちがいま、背広で、太ったおじさんになって、ビールで酔っ払いながら歌ってるのが、なんかこう……見苦しくて、すごくよくて。その2つが今回のベースになってます。

劇団きらら『ガムガムファイター』熊本公演(前列左から、オニムラルミ、有門正太郎)(撮影:劇団きらら)
前列左から、オニムラルミ、有門正太郎

切実な現実に向かい合った劇作

―今回の『ガムガムファイター』は、『踊り場の女』『ぼくの、おばさん』と合わせて三部作とのことですが、毎回視点がやさしいと思うんです。やさしいけど、でも「現実ってやっぱりそうだよね」というところはちゃんとシビアに描いている。この3年間でそういう世界観を描こうとした、そういうところに興味がいったのはなんでですか?

いやもう、現実が切実で……。最近、同世代としゃべってても、雑談の中に「うつ」とか「ガン」とか「介護」とか「リストラ」って普通に混じって来て。世間ではびっくりするような事件も起きたりして。(演劇で)どんな話を書いてもその現実に追いつかないなあって。だから、現実とは全く違うディズニーだったりミュージカルだったりみたいな世界に触れて救われることもあるけど、きららではやっぱりどうしても……シビアな現実に寄り添うような話を作りたいなぁと。

実は今回は、読み合わせをしたときにあまりに暗くて重くて、「これ、ダメかも」ってちょっと思ったんですよ。宗さん(※3)にも「これやるのはキツいです。って言われて。それで皆とかなり話して。この重さを、なんとかポップに出来ないかって。大人って悲劇が起こった時に「大変だったでしょう」って言うと「それどころじゃないわよ〜」ってなるんですよね。ハタチくらいだったら悲劇は悲劇として受け止めるけど、やらなきゃいけないことや守らなきゃならないものがある大人には、なんか……笑うしかない、「笑える方向に持っていく筋肉」みたいなのがあるなあって。だからそんな目線で、ポップな作品に出来ないかって。

そこで突破口になったのが正太郎くん(※4)。正太郎くんはもともとリアルを大事にするお芝居をする人だから最初は演技がかなり重くて。台本を読み込むほど、ますます重くなって。だから毎晩話して話して、二人でみつけた突破口が「飛ぶ劇場や時空(※5)の正太郎くんじゃなくて、有プレ(※6)の正太郎くん」。たとえば「戸惑い」の表現ひとつとっても、「むむっ」って沈むんじゃなくて、「あうちゃー!」って表に出してしまう。そんなプランに変更して。その突破口が見えてから、一気に稽古場が変わりました。実際、正太郎くん自身がそんな風に「ご陽気」な人なんですよね。

舞台はラブホテル

ラブホテルが舞台なので、性的な言葉や表現が普通に出てくるんです。以前『踊り場の女』っていう作品で、男優の股間を触るっていうシーンがあって、あれがすごくダメだったっていう人がいて。私は何とも思ってなかったんだけど、そういう「嫌悪感」ってあるよなぁって。今回も「うんこ」ってしょっぱなから出てくるし、「コンドームが詰まった排水口」とか「喘ぎ声」とか「オーガズム」とかいっぱい出てくるので、ダメな人は出ていくんじゃないかなあ……。脚本を書いてるときは夢中だったけど、お芝居にすると「このへん、観る人によってはキツいだろうな……」って思ったりして。でも、思春期の子に見せるんだったらもうちょっと慎重にやらないといけないだろうけど、そういうの(生理的なこと)って当たり前のことだし、会話のなかにあるものだから。「うんこ」も「精液」も「オーガズム」も自分の身体のことだから。そこはうやむやにしないことにしました。

劇団きらら『ガムガムファイター』熊本公演(撮影:劇団きらら)
ラブホの清掃をしているシーン(前列左から、有門正太郎、寺川長)

さっき今回のキーワードとして「百円の恋」とブルーハーツの2つポイントを挙げましたけど、もうひとつ、「落っこっちゃった人が就く仕事」っていうのを探ってたんです。今回の主人公は「花形の広告代理店から落っこっちゃった人」って決めてたんですけど、落ちた先の仕事はどうしようって。さしあたり「実演販売」とか考えてて。実演販売ってすごく「一匹狼」のイメージがあって。でもちょうどそのときに寺川長(※7)くんがラブホの清掃のアルバイトをしてた話をしてくれて。それがめっちゃおもしろかったんです。それで、「ラブホ 清掃 ブログ」で検索したら、ブログがいっぱい出てきて。それこそ汚いことばかりだから、真面目にやってたら精神的にまいるんだけど、ブログ書くくらい心に余裕があるひとの文章って、もう笑えて仕方ないやつばっかりなんです。5つ6つ読んでたんだけど、どれも共通することって、やっぱりうんこの話とか、「(セックスしてるのを)見てろ」って言われるとか、殴られるとか。ゲッ、て思うけど、ラブホって、シティホテルとかビジネスホテルとかと違って、入るときに名前を書かないから、好き勝手できる。で、その掃除をするのが当たり前の人たちがいる、っていう。それがすごく衝撃的で。

Facebookは中年のツール

今回正太郎くんが代理店の花形企画マンから、メンタル病んで、逃げて、北九州から熊本に来て、ラブホの清掃を始める。でも彼はFacebook中毒だから、ずーっと「自分はがんばってる」ってFacebookでアピールして、「いいね」を支えにがんばっていくんですね。

「Facebookは中年のツールだ」っていうのを、ちょっと前に感じたんです。たとえば10代20代が何気なく書いたものを、長ーいコメントでお説教とか励ましたりとかしてるオトナがいて、それに対して若い子は「あざす」の一言で終わってたりする。あー、普段の会話でもこうだよなーって。Facebookって文章の制限がないから、若い子からしたらたぶんウザいんだろうなあって。Facebookって、誰でも長々と語れて、自分の幸せをアピールできる、承認欲求を満たせるツールだと思うから、特に40代のおじさんがすごく使ってる気がする。

―今回が「三部作」というところの3本目の位置づけとのことですけど、結論的な位置にある感じなんですか?

うーん。「応援力」はいちばん強いかな。「こんなのありますよね」「こんな大変なこともありますよね」って。でもそれを応援したい。……来年も応援する話書いてたらすいません(笑)。四部作になってたりして。

―さっきも楽屋でみなさんが言われてました。オニムラさんが今回もう死んじゃってるから、次回は転生して植物になってたりとか。

植物が幸せになる話(笑)。でも「人間じゃないもの」を出すのはすごく難しかったです。発想の時点ではワクワクしたんだけど、書き出したらグッっと固まってしまった。幽霊ってファンタジーだから、リアルな設定と併せると、あちこちつじつまが合わなくなって行く。んで、立ち稽古に入ったときに更に「うそくせえ~」と思って。だから稽古場で必死に「つじつま」を探った。そのうちに演じ手の皆がおもしろがって遊び出してくれて、ようやく「舞台の嘘」の中で成立して行った。何より「有プレモード」の正太郎くんのデフォルメに助けられてるところがかなりあります。「人間じゃないもの」を出すのは本当に難しい。ほんと、正太郎くんのおかげ。

―さっき有門さん、「俺が客演で来てチケット売れなかったら責任感じる」って言われてましたよ。

(笑)ほんとに!? うはは。

―「売らないと……」って。

そんなことを……。正太郎くんが責任感じてるんだ!?

劇団創立30年を迎え、いまなおシビアな現実に寄り添った表現を追求し続ける劇団きらら。次回は客演、有門正太郎と池田美樹の意外な初対面のエピソードなどを交えながら、本作での有門の魅力に迫る。

インタビュー・執筆:藤本瑞樹(kitaya505)

※1)オニムラさんは、幸せになるどころか死んじゃってた
劇団きららの俳優、オニムラルミが最近の2作『踊り場の女』『ぼくの、おばさん』で演じた役は、どれも華々しく幸せになるわけではない結末をたどっていた。新作『ガムガムファイター』でオニムラはとうとう「うんこを踏んで死んだ幽霊役」を演じることに。

※2)「百円の恋」
2014年日本。32歳にして実家に引きこもっている一子(安藤サクラ)は、実家を出てひとり暮らしを始め、百円ショップで働き出し、やがてボクシングと恋に打ち込むようになる。第88回アカデミー賞外国語映画賞部門の日本出品作に選出された。

※3)宗さん
劇団きららの俳優、宗真樹子。

※4)正太郎くん
飛ぶ劇場の俳優、有門正太郎。今回の『ガムガムファイター』に客演している。

※5)時空
2008年度に始まった宮崎県立芸術劇場の人気企画「演劇・時空の旅」。古代ギリシャ時代から現代にいたるまでの名作戯曲を題材とし、時間と空間を旅しながら、人類史をたどっていくシリーズ。九州各地を拠点に活動する俳優を集め、宮崎で約1か月かけて作品製作を行う。

※6)有プレ
北九州を拠点に活動している、有門正太郎が主宰するカンパニー「有門正太郎プレゼンツ」。創作の上で、笑いを大事にしている。

※7)寺川長
大帝ポペの俳優。今回の『ガムガムファイター』に客演している。


劇団きらら『ガムガムファイター』

作・演出:池田美樹
日時:2015年12月5日(土)14:00/19:00
        6日(日)13:00(※前売終了)
会場:ゆめアール大橋 小劇場(福岡市南区大橋1-3-25)
料金:前売2,300円(当日2,800円)
   リピーター割引1,000円

【関連リンク】
劇団きらら『ガムガムファイター』特設ページ

【関連記事】
「底辺仕事」を描く!きらら30年目の新作

※情報は変わる場合がございます。正式な公演情報は公式サイトでご確認ください。

LINEで送る
Pocket