田坂哲郎(非・売れ線系ビーナス)『そう遠くない』インタビュー

2016.01.21

2月に『そう遠くない』(脚本:田坂哲郎、演出:木村佳南子)で佐世保・福岡ツアーを行う非・売れ線系ビーナス。2013年に福岡で初演が行われた本作は、2014年に宮崎・熊本・長崎・沖縄で再演、今年三たび上演される。

ほぼ立て続けに九州各地に上演されることとなった『そう遠くない』という作品は、いったいどういうものなのか。本作の特徴や見どころについて、非・売れ線系ビーナスの代表で脚本を担当する田坂哲郎に、客演している不思議少年『いいひと』の仕込みが落ち着き、仕事がなくなって手持ち無沙汰なところで話を訊いた。

非・売れ線系ビーナス 第22回公演『そう遠くない』

福岡市南区に、佐賀県の基地がある話

—まず、今回の作品の内容から教えてください。

『そう遠くない』は3年前に福岡で初演をやってるんですけど、「福岡市南区に基地がある」という設定で、その「基地が見える二階建ての喫茶店」を舞台にして、その喫茶店に集まるひとたちの生活や基地に対する思いを、喫茶店の店長の気持ちの変化を軸にして描くという、大筋の骨格の部分は3年前から変わっていません。ただやっぱりそのときどきで社会情勢や政治状況が変わるので、毎回毎回脚本はほぼオール書き直しをしています。

—おおー。

初演と九州4都市ツアー版と今回とは全部違う話です。ツアーのときが沖縄県知事選が近いタイミングで、沖縄公演がちょうど県知事選の選挙の日みたいな、すごいタイムリーな感じだったので、話のなかに「選挙どうする?」みたいな話がずっと出てくるんですよ。だけど今回は「選挙どうする」みたいな話はいっさい出てこず、「南区にさらに新しい基地が建築されるらしいぜ」みたいな話が出てきます。劇中の人物たちの話題のなかに、沖縄のいまの情勢とちょっとリンクさせた話が入ってますね。

—基地っていうのは、「アメリカ軍の」みたいな……?

劇中では、そう世界観をワンサイズずつダウンさせていて。「佐賀県の基地」なんですよ。

—ほう。

福岡県と佐賀県がかつて戦争をしたことがある。そのまま佐賀県の基地が福岡市南区に残っている。という設定になっているんです。これはあんまり作品中に明言されてはないんですけど、佐賀に行こうと思ったらパスポートが要るような。で、福岡市のなかでも南区だけが基地がある区で。南区って佐賀と近いので。そういう、パラレルワールド的な話になってます。だから「南区」っていうのが「沖縄県」、「福岡市」っていうのが「日本」とダブる、みたいな。東区から来たひとは全然南区の基地のことをよく知らないっていうことがあったりとか。ワンサイズダウンすることで、特に福岡のひとにとっては身近な感じに捉えてもらえるんじゃないかなと。沖縄のことを沖縄の土地の話としてしゃべっちゃうと、結局「ああ、沖縄の話ね」で終わっちゃう気がして。もともとこの話を書こうと思ったのは、それがいちばんのきっかけなんですけど。

—なるほど。

そうなっちゃうと嫌だなあというか、ていうかそうなっちゃうと坂手洋二(※1)さんには勝てないんで。

—(笑)勝とうと思ってワンサイズ小さくした、と。

(笑)勝とうっていうか、勝負にならないんで。別の方法で勝負しないとっていうことですけど。

—「社会派に真っ向から仕掛けてもダメだ」と思って。

そうそう。それでもツアーのときはやっぱり沖縄に行くっていうのもあって、結構社会派な匂いのする話になったなあという感じがするんですけど、今回はそのときの反省というか、ただ沖縄の基地っていうだけじゃなくて、もっと「距離」と「ひと」との話にしたいと思って。ちょっと住んでる場所が違うだけで価値観とか考え方とかが変わっちゃうし、「ここに住んでいる」っていうだけでひとはひとを差別できちゃったりするっていうような、もっと普遍的な話にしたいと思って書いていて。結果なんか「社会派コメディ」って呼んでいいようなジャンルの話になってるんですね。

—じゃあ笑える感じの……

結構笑える。「喫茶店を舞台にしたドタバタコメディ」という言い方をしても、そんなに嘘ついてないなっていう感じですね。前回『キリエ礼賛』っていうミュージカルをやったりもしたんですけど、その流れでもっともっと単純にお客さんにたのしんでもらえる作品を目指していきたいというか、アートとエンタメのちょうど真ん中を貫くものはないかなあと考えていたときに、ただただ問題提起に終わらずに、ふつうにストーリーとしてもおもしろいというところに持っていきたいと思って今回はつくってます。

3回付き合うことになった『そう遠くない』

モデルのように立ってと言われた田坂哲郎(非・売れ線系ビーナス)

—この作品は、そこまで時間を置かずにほぼ3か年くらいのペースで取り組んでるわけですが、そこまで長期的に付き合おうって思ったのはなぜですか?

うーん……。いつになく、やればやるほど「もっとこういう風に変えていきたいな」みたいなことが見つかる作品だ、っていうのがありますね。沖縄公演に行ったときも、「次これやるときは、もっとここをこうしよう!」って終わった直後に思ったので。

—それは課題とかじゃなくてクリエイティブな意味で、ということですか?

両方かもしれないですね。課題の部分もあるだろうし。ツアーをやったことがデカかったですね。いろんなところに回っていろんな反応を見て、もっといろいろやれる作品だなって思ったし。ツアーがあったからこそ今回の佐世保も決まったし。もともと沖縄でやりたいなとは初演のときから思ってたんですけど、こんなに長い付き合いになるとは思ってなかった。まさか3回もやるとは。一応今回で一区切りなんです。でもまた時間を置いて「セカンドシーズン」じゃないですけど、もしかしたらタイトルも違うかもしれないけど、またちょっとやりたいなとは思ってます。レパートリーっていうのとはまたちょっと違う形で、ずーっと変化し続けながらも描き続けていく世界のひとつになったらいいなあとは思ってますね。

脚本と演出を分業するということ

モデルのように座ってと言われた田坂哲郎(非・売れ線系ビーナス)

—いま非売れでは脚本と演出を完全に分業してるじゃないですか。あれってもう……

2009年から手渡してるので、5年くらいは経ちますね。

—ひとつの作品に結果的に長期的に付き合って、作品が変化するのにも付き合うっていうときに、いっしょに自分で演出もした方が、よりその変化を自分の思った通りに出しやすそう、というイメージがあるんですが、それでも演出を分業してるのはなんでですか?

確かにそういう側面もあるとは思ってるんですよ。ひとりで全部やる方が、より明確に色を打ち出せるっていうことはあるかもしれないと思うけど、でも、これはほんとに最近ですけど、ひとに脚本を演出されることのおもしろさ、みたいなのを感じていて。それは別に同じ劇団の演出家であってもそういうのは感じるので。自分で演出するよりも、ひとに脚本をいじくりまわされた方がおもしろいなって。

あと、「脚本」というものに対する考え方が自分のなかでどんどん変わってきてますよね。もともとそういうところはありましたけど。やっぱり「脚本はあくまで叩き台である」っていう考え方に、どんどんなっていってる。

—「脚本に書いてあることだけが正解なんだ!」じゃなくて。

じゃなくて。だから台詞を変えられたり足されたりすることについても、まあここは変えないでみたいなこともあったりはしますけど、そのこだわりはこだわりで出していけばいいけど、そうじゃない部分は気にならなくなってきたっていうのはあるかもしれないですね。またウチの演出が結構ざっくり切ったり貼ったり入れ替えたりとかを割とするんです。僕の本じゃなくてもそうなんですけど。だからこういう分業はひとつの形としてアリだと思ってやってますね。あと役者に専念したい。専念したいっていうか、役者をもっとやりたいなあと思ってるので、演出もやると自分に負担のかからない役しか書かないから。

—今回客演している『いいひと』(※2)の稽古場での演技を見て、「あ、このひとこんな怪優やったんや!」って初めて認識しました。

(笑)「怪優」って初めて言われたけど。

—まあ役柄がそういう、

エキセントリックな役ですからね。今回特に。

見どころなど

田坂哲郎(非・売れ線系ビーナス)

—『そう遠くない』の見どころはどんなところですか?

同じ設定でこんなに雰囲気やストーリーが変化して、新作と言っていいくらいの出来になるんだ! というところですかね。それプラス、今回上演が3回目で、世界観に対する思いの積み重ねがだいぶ熟成してきたと思うので、そのへんの変化を、初演を観た方にもたのしんでもらえるんじゃないかと思っています。初めて観る方には単純に、新作公演として十分たのしんでもらえる作品だと思います。ある社会的なことを題材にした「コメディ」だと思ってもらって全然いいので。笑いに来てください! って思います。

—最後に一言お願いします。

非・売れ線系ビーナスっていう劇団自体が好きっていうひともいてくれてると思うんですけど、もっと「福岡」のお芝居が好きだとか「福岡」の役者さんが好きだとか、そういうひとたちに対して、もっとたのしい思いをしてもらえるような作品がつくれたらいいなと思っています。客演さんを呼ぶことも、もっとどんどんしていきたいと思ってるし、もっといろんなひとたちといろんな形の、ジャンルにとらわれない活動がしていけたらいいなと思っています。

※1)坂手洋二
燐光群主宰。しばしば社会問題を題材に扱うため、作風が「社会派」と呼ばれている。

※2)『いいひと』
不思議少年 第12回公演『いいひと』(作・演出:大迫旭洋)。田坂は本作にちょっと奇抜な役で出演している。


福岡市南区油山。油山牧場だった場所は、今は県立防 衛軍の基地となっている。その基地を見下ろすように建っている、二階建ての展望台喫茶店。新型軍用ヘリの着陸に反対する座り込みの人たちと、混乱を鎮めるために他の区から派遣されてきた人たちが、今日も窓から良く見える。そんな中、店に妹を探して男がやってくる。次第に明らかになっていく、喫茶店の過去。基地も戦争もある、空想の福岡市南区で生きる人たちの、葛藤と選択の物語。

出演は、小柳緑子(メニドク)、富田文子(フリー)、徳留春菜(14+)、田崎小春(万能グローブ ガラパゴスダイナモス)、ケニー、柳暁子、田坂哲郎。

チケット料金は下記参照。お問い合わせは非・売れ線系ビーナスhi.uresenkei.venus@gmail.comまで。


非・売れ線系ビーナス 第22回公演『そう遠くない』

脚本:田坂哲郎
演出:木村佳南子

【佐世保公演】
日時:2016年2月8日(月)19:00
        9日(火)19:00
   ★8日終演後アフターイベント開催
会場:アルカスSASEBO 大ホール特設劇場(佐世保市三浦町2-3)
料金:一般1,500円(当日2,000円)
   学生一律1,000円

【福岡公演】
日時:2016年2月19日(金) 20:00
        20日(土)14:00/18:00
        21日(日) 14:00★
        22日(月) 20:00
        23日(火))20:00
   ★21日終演後ワークショップ開催!(要観劇・要予約)
会場:ぽんプラザホール(福岡市博多区祇園町8-3)
料金:一般2,500円(当日3,000円)
   学生一律1,500円

【関連サイト】
非・売れ線系ビーナス

※情報は変わる場合がございます。正式な公演情報は公式サイトでご確認ください。

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