弦巻楽団 弦巻啓太×深津尚未×深浦佑太 対談

2016.06.15

弦巻楽団(札幌)が初めての九州公演を行う。上演するのは日本演出者協会若手演出家コンクール2014で最優秀賞を受賞した『四月になれば彼女は彼は』(脚本・演出:弦巻啓太)。劇団の試演会で発表するために岸田國士の『紙風船』の稽古をしている劇団員二人。『紙風船』の夫婦を演じるふたりと、劇中の夫婦が演じる理想の夫婦。重なる「演じる」という行為とアプローチを変えて繰り返されるシーンを通して、演じるとは何か、「演劇」とは何かを問う本作は、若手演出家コンクール最優秀賞受賞後、北海道内のほか韓国、三重、京都でも上演された。

初の九州公演を目前に控え、脚本・演出の弦巻啓太と本作に出演する劇団員の深津尚未、客演の深浦佑太による対談が行われた。

弦巻楽団『四月になれば彼女は彼は』

各地で上演して感じる「地域性」

ーまずは、5月に行われた韓国・三重・京都公演を終えての感想から聞かせてください。

深浦 韓国は、行く前はすごく不安だったんですけど、いざ行ってみると伝わるものはちゃんとあるんだなって感じがしましたね。僕も現地で演劇を観たんですけど、もちろんセリフは全くわからないけど、演技やその場の居方、関係性でわかるものがたくさんあったので、僕たちの作品もそういう部分を観てくれてたのかなって感じがして。その感覚があとに続く公演や稽古にも生かされて。月並みですけど貴重な経験ができたなと思います。
深津 韓国でお芝居を観たときに思ったのが、街のなかでお母さんと娘が手をつないでたり、仲良く肩寄せ合って歩いてるのをよく見て、そういう生活環境みたいなものが芝居にも現れてるな、と。札幌のお芝居とはスキンシップみたいなものが違うなと思って。そういうアプローチを今後自分の演劇に取り入れられたらいいなと思いました。
弦巻 韓国に行く前は、岸田國士の『紙風船』をやってるひとたちの……韓国で馴染みのない脚本を稽古している話だから、これは厳しいんじゃないかって、実は僕らを送り出してくれるひとたちは不安視してたんですけど、そういうデメリットは全然なかったと思う。『紙風船』自体がとてもしっかりした、いろんなことが描かれている戯曲だから。人間の営みだったり、心理だったりという普遍的な部分があって、それは国の文化を超えてちゃんと伝わるんだなと思いましたね。それはでも三重、京都に行っても同じように思ったけどね。京都の演劇人たちが見てくれて、岸田國士の、ちょっと言葉はあれだけど「取り澄ました感じ」が好きじゃないっていう意見があったのも、地域性だなと思ったり。生活環境から人間性が育まれて、そういう風に感じるひとがいるんだなっていう。
深津 面白い意見だなと思って聞いてましたよ。
弦巻 逆にそのひとたちが『紙風船』をやったらたぶん全然違うものになるんだろうね。同じものから違うものを読み取る、感じるというか。……どう、やってて。飽きてきた?(※1
深浦 飽きてきてはないです(笑)。三重で観てくださった方に「常にひとが物語に挑み続けている作品だよね」って言われたのが印象的で。確かにそうだなって思ったんですよね。何回やっても個人的には飽きるってことがなくて、毎回その時のベストを出すように努めるんですけど、終わってからあれはああだったのかなとか考えて。次の本番になったらまた別なアプローチでできる作品なので、すごくいいんですよね。それこそ挑んでいかなきゃダメ、挑んでる作品だなって気がします。なので回によって、公演地によって、違う作品になってるんじゃないかなって思います。それだけ広がりがあるっていうか……言葉が出てこない。全然出てこない。受け取れる……アレがひろい。
弦巻 いろんな見方ができる。
深浦 いろんな見方ができる! いろんな見方ができるし、僕らもこれだけやってまだいろんなやり方ができるから、初めて見るひとは三者三様いろんな感じ方が……
弦巻 見るひと3人しかいないの!? 千差万別とか、もう少し母数の多い単語使って欲しかったな(笑)。
深浦 千差万別に見てもらえるのかなって。見たときに、あれはこうなのかああなのかって思う作品ではあると思うんですよね。投げっぱなしではないんですけど、どこかでひっかかって思案を巡らせるのが、僕らがこの作品をやっている意義でもあるのかなと思って。そういう楽しみ方があるのかなと思います。

左から、深浦佑太、深津尚未、弦巻啓太

弦巻 この作品ってどうなんだろうね、札幌っぽいのかな? 我々が気付いてないだけで札幌っぽさっていうのはにじみ出てるのかもね。この作品は特に意識してるんだけど、京都公演を観た方がツイッターで、「札幌の演劇は相手のセリフが終わるのを待ってる感じがする。関西人は待たないでしゃべると思うけれど、浅い見方かなぁ」とつぶやいてたんだけど、むしろそれすげえある。
深浦 地域性はあるのかもしれないですね、いつもやってることが出てしまうから。
弦巻 話変わるかもしれないんですけど、北海道出身の漫画家が、ある絵を見ればその漫画家が北海道出身かどうかがわかるんだって言ってて。北国出身かどうかわかるのは雪の表現なんだって。ただの読み手としてはわからないけれど、書き手側に立つとそういうのってわかるんだなと思って。そういうふうに地域性というか生まれ育った蓄積が身体に出てるんじゃないかと思います。そういった意味で北海道らしさが出ているかもしれないし、旅に出るとそういうことに気づく機会になっていいですよね。
深浦 客観視できるっていうね、作品を。旅公演が役者を、芝居をいちばん成長させるよって話もされて、確かにと思って。
弦巻 この作品で、三重と京都に行って、札幌でも自分達は戦ってるつもりだったり、ものづくりに真摯に取り組んでるつもりだったんだけど、それでも札幌はまだまだホームなんだなと感じた。アウェイにいくことで自分達の身の丈みたいなものも見えてくるし。逆にいうと、それが本当の自分なんだなって思ったし。ホームで暖かい環境の中だけでものづくりし続けてそういうことに気づかないでいたらと思うとぞっとするというか、怖いなとさえ思ったので、旅に出るっていいなと思って。自分たちのことを知らないひとたちの場所で、表現だけで繋がっていく。そういう意味では手応えもあったんだよね。見てくれたお客さんに対する残り方がすごく深い作品だから、韓国にしても三重にしても。そこに対する自信は多少つくし、足りないところにも気がつくし。作ったときは無我夢中だったけど、やってみたら韓国でも上演したいって劇団のひとが出てきたり、そういう風に広がっていく可能性がある作品だってことが実感できたので、北九州や東京でどう広がっていくか、広がっていく可能性を見つけられるかっていうのが楽しみです。

飛ぶ劇場・不思議少年との縁

ー北九州といえば、飛ぶ劇場さんと札幌の演劇とではいろいろと繋がりがありますね。

弦巻 実はこんなにお世話になってるのに未だに飛ぶ劇場さんの本公演を一度も見たことがない(※2)という不届きな人間なんですけど。2008年……もう8年前ですね、札幌の劇場の企画で飛ぶ劇場の泊篤志さんの戯曲講座を受けました。月に1回泊さんが札幌に来てたんですけど、僕だけ4回目くらいのときに、「これ今弦巻くんがやっても意味ないね」って言われて書いてたプロットが全部ボツになって。そのとき、僕以外の受講者の3人には、ちゃんとプロットを立ててお話を書くみたいなことを教えてたんだけど、俺はそういうことを常にやっていたっていうものあって、そうじゃないことをした方が可能性があると泊さんが感じてくれたらしくて。俺だけプロットとか全く立てないで自叙伝をひたすら書く、長さも気にしなくていい、実際にあったエピソードだけをどんどん書いていって、って言われて書いていって、最後のあたりで泊さんに、これだと脚本にならないねって言われて(笑)。
一同 (笑)

弦巻啓太

弦巻 脚本にならなくていいって言ったじゃん! って思ったんだけど(笑)、なので頭とお尻にちょっとつけて体裁を整えて。でもその脚本(※3)がすごく評判がよくて。自分はどっか頭でっかちにプロットを立てて、ある意味、登場人物がプロットの奴隷みたいになってるところがあった。いろんなことに気づかせてくれた機会になったので、もう恩を受けっぱなしっていうか。なので北九州に、一太刀、仕返しを。

ー恩返しでは?

弦巻 恩返しをしようと。打ち上げのときに泊さんに言われて印象的だったのが、演劇とは関係ない話をしてたんですけど「弦巻くんがいろんな意味でいちばん心配だね」って。世間に溶け込めるかどうかみたいなことを言ってたんじゃないかと思うけど。そういった意味で今の僕がどう成長したか、今も心配なままなのかを見てもらえたらなと。九州は楽しみですね。九州にはこの作品を最初にやったコンクールの決勝で競演した不思議少年さんもいらっしゃいますし、見てもらえるのが楽しみですね。
深浦 同じ部屋で寝た仲(※4)ですからね。恩は返さないといけないですね。
弦巻 深浦くんは、不思議少年の大迫くんとそっくりだってことでメガネを取り替えたりして。
深浦 似てるかな。
弦巻 僕、音響やってたんですけど、最後の回はお客さんが結構入ったので、大迫くんたちは音響席のカーテンで仕切ったすぐ横で見てたんですよね。終わって出たときに、すぐそこに大迫くんと森岡さんがいて、僕がありがとうっていったら、大迫くんが、何も言わなかったんだけどとても心のこもった拍手を僕に向かってしてくれて、あのときすごく嬉しかった。

ー不思議少年はどういう作品だったんですか。

弦巻 『棘』という作品で、寺山修司のセリフを引用したりするところからある女のひとの一生を追ってるんですけど、大迫くんや森岡さんがそのひとのセリフを言う主体になる瞬間もあれば客体になる瞬間もある。ほとんど森岡さんのお芝居なんだけど、いろんな台詞回しだったり身体をつかったり、演劇的な試みがすごくなされてて、技術も高いなっていうのを感じたし。
深津 七変化してました、お二人が。声も身体も。年齢も、役柄も。

ー何でそういう若手が出てくるんでしょうね。しっかりとした作品を作る20代。

弦巻 そういうものを見てきたんだと思いますよ。よい伝統がちゃんと残っていくんでしょうね。例えば東京で起きた新しい波も九州までは届いて、薄くはなってもちゃんと残って行くんだなっていう感じがしましたね。寺山修司のセリフだったり、小劇場演劇的な遊びみたいな部分とかもありつつ、自分たちがどういう作品にしていくかっていうのを考えている感じとか。過去にあったいろんな手法はトライしてできる、っていうのは見ていて感じましたね。……はあ、なんか緊張してきた。そのひとたちとかにまた見てもらうんだって思うとね。
深浦 来てくれるかなぁ。

そのときの自分を映す鏡のような作品

深津尚未 深浦佑太

ー出演者のお二人から見て『四月になれば彼女は彼は』はどういう作品ですか。

深浦 1年以上の付き合いだからね。
深津 そうですね。私は取り組み出したときは全然わかってなくて、弦巻さんと深浦さんが稽古場でずっとディスカッションをしてたけど、私だけ全然わかんないし、まず言われたことやらないとってことで頭がいっぱいで。函館と苫小牧とやったときもあんまり掴めなくて、韓国に行く前に久しぶりに台本開いて、書いてあるダメ出し見たら当たり前のことしか書いてない! 台本読めばわかることばっかり書いてあって、全然読み解けてなかったんだなっていうのがわかって。三重とか京都でやっているときに、やりながらちょっとずつわかってきたり、こうなんじゃないかなって試せるようになってきたっていう感じで、今回も北九州と東京でまた違う考えじゃないけど、こういうのどうだろうって考えながらやっていこうと思っているので、尽きないですね、トライが。そういうような芝居だなと思っています。
深浦 僕的には「そのときの自分を映す鏡」みたいな。(笑)。
弦巻 それ写真の横に太字で出るやつ!

ー見出しに使われる。

深浦 「こうだ」と思ってやっても、次の公演地にいって台本を読み返したら、「こうじゃないふうに読み解けるな」って違うアプローチができる作品なんですよね。だからすごくやりごたえがあるなっていうか……「鏡」という感じ? だから観るひとも、作品を観てそのひとが抱えている何がしかが舞台上に見えてくる、みたいな作品なのかなって。観たひとの、問題なり解決できない何か……思い出だったり、そういうのが舞台上に見えてくるっていう素敵な作品なんじゃないかなって思いました。鏡のような。

弦巻楽団『四月になれば彼女は彼は』(撮影:西岡真一 会場:津あけぼの座)
弦巻楽団『四月になれば彼女は彼は』(撮影:西岡真一 会場:津あけぼの座)

ー北九州では弦巻楽団ってまだまだ馴染みがないと思いますが、客演の深浦くんからみて弦巻楽団ってどんな劇団ですか?

深浦 やってる年代によって作品の味わいが違ったりするので、それこそいろんな作品をやってるなって感じがあって、観始めたのが6〜7年前くらいなんですけど、基本的に「丁寧」。
弦巻 へぇー。
深浦 世の中には「雑!」って思う作品もあるじゃないですか。いい雑さもあるけど。弦巻楽団はいい丁寧さが舞台上に乗るなって感じがしたんですよね。それこそ2年前は『ナイトスイミング』でお客さんの得票で選ばれるオーディエンス賞をいただいた(※5)りだとか、その後に演出家コンクールの最優秀賞をいただいたりだとかあるので、万人に受ける作品もあるし、演劇をたくさん観てきたひとたちに響く作品もあるし、幅の広い作品を持っている劇団かなっていう風に思います。……「いい劇団」。
弦巻 雑!(笑)。

ー最後に九州のお客様にメッセージを。

深津 行ったことない土地で、どれだけいろんなことをできるかをトライしに行こうと思っております。観に来てください。よろしくお願いします。
深浦 北と南でかなり距離が離れてるので、価値観だとかひととの関わりあい方も違うでしょうから、どういうふうに観てもらえるか楽しみです。観に来ていただきたいのはもちろんのこと、どういう感想を持ったのかなっていうのも聞かせていただけたらうれしいですね。あとは、最優秀賞をとったので、どういう作品が最優秀賞をとったのかっていう興味本位でも観に来ていただきたいです。二人で一時間の会話劇をやるぞっていう無骨さみたいなものが見えるといいなって思います。
弦巻 弦巻楽団初の九州公演になります。名刺にするにはとても不思議な作品なんですけど、それでも弦巻楽団という劇団が何に軸足を置いて、何を尊重して作品作りに臨んでいるかっていうのがよく出ている作品というか、それしか舞台に上がっていない作品だと思いますので、ぜひ弦巻楽団を観に劇場に来てください。よろしくお願いします。


九州初上陸となる弦巻楽団。韓国・三重・京都のツアーを経て洗練された北海道の地域性が、舞台でどのような表現となるのか。普遍性のあるモチーフの奥に垣間見える、ツアーを経験したからこその強度を持ったパフォーマンスに期待したい。

この作品の成り立ちについては、三重県を中心とした舞台芸術情報サイト「ぱふぉ」のインタビューに詳しいので、作品に興味を持った方はぜひご一読いただきたい。

出演は、深浦佑太、深津尚未。

チケットは前売2,000円(当日2,300円)。また、飛ぶ劇場『睡稿、銀河鉄道の夜』チケットの半券持参での割引も行われている。詳しくは弦巻楽団サイトまで。

予約・お問い合わせは弦巻楽団090-2872-9209、tsurumakigakudan@yahoo.co.jp、枝光本町商店街アイアンシアター093-616-9890まで。

聞き手:小室明子(ラボチ)
構成:小室明子・藤本瑞樹(kitaya505)

※1)飽きてきた?
2015年3月に若手演出家コンクールの最終審査で上演して以来、7月に札幌、秋に函館、苫小牧で上演。今年5月に韓国、三重、京都と、1年半に渡り他都市で上演されてきた。

※2)飛ぶ劇場さんの本公演を一度も見たことがない
飛ぶ劇場の札幌公演は『あーさんと動物の話』(2007年)、『睡稿、銀河鉄道の夜』(2009年)、『大砲の家族』(2013年)と三度行われている。

※3)その脚本
その講座で生まれたのが、弦巻の人生を描いた『茶の間は血まみれ』。後年プロデュース公演としても上演され、高い評価を得た。また、この戯曲講座から生まれた『歯並びのきれいな女の子』はプロデュース公演として泊篤志が演出、飛ぶ劇場の木村健二も出演し、札幌で上演された。

※4)同じ部屋で寝た仲
地域から若手演出家コンクールに参加した不思議少年と弦巻楽団は、梅ヶ丘ボックスに宿泊。トランプなどもして和気あいあいと過ごした。

※5)オーディエンス賞をいただいた
毎年11月に札幌の9劇場を舞台に行われる「札幌劇場祭 Theater Go Round」で、深浦主演の『ナイトスイミング』がオーディエンス賞1位を獲得した。


弦巻楽団『四月になれば彼女は彼は』

脚本・演出:弦巻啓太
日時:2016年6月25日(土)19:00
        26日(日)13:00/17:00
会場:枝光本町商店街アイアンシアター(北九州市八幡東区枝光本町8-26)
料金:前売2,000円(当日2,300円)
   ※飛ぶ劇場『睡稿、銀河鉄道の夜』とのコラボ割あり

【関連サイト】
弦巻楽団
弦巻楽団(Twitter)
札幌劇場祭

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