「抑揚を持たない宇都宮誠弥と、彼のモラトリアムな年」(第4回)藤原達郎

2017.08.23

その後すぐ展望台を降りた。宇都宮はパスタを食ったことは黙って、マサミ姉ちゃんと一緒にご飯を食べに行くつもりだったが、マサミ姉ちゃんは友達からご飯に誘われ、そっちに合流すると言った。一緒に来るかと誘われたが断った。マサミ姉ちゃんの友達に対してなんだかうまく振る舞える気がせず、断ったのだった。「じゃあ、また」と言ってマサミ姉ちゃんと別れた。

マサミ姉ちゃんの家に泊めてもらうつもりだったので、宿泊先のあてがなくなった。もう21時をまわっている。ホテルを探さなければならないが、今からスマホを操作して一軒一軒あたるのがめんどうで、とりあえず本町の、夕方チェックアウトしたビジネスホテルに向かった。途中のコンビニでプリンを買った。カバンが肩に食い込んで痛かった。

プリンを食べながらホテルに入ると、夕方と同じフロントの男が「え?」という顔をした。

「部屋、あいてますか?」
「…ご宿泊、ですか?」
「はい。あいてますか、部屋」
「…ございます」

プリンを食べながらやりとりする宇都宮が異様だったのか、フロントの男はそれ以上何も聞かず、宿泊の手続きをした。カードキーを渡すタイミングで、「これ、忘れ物です」と言い、フロントの中にある個室からビニール傘を持ってきた。

カードキーをポケットに入れ、ビニール傘を腕にかけ、「これ、捨てといてください」とプリンの容器をフロントの男に渡して、宇都宮はエレベーターに乗った。あべのハルカスのエレベーターより上昇するスピードがゆるやかだった。二階、三階…と点灯する階数表示を見つめながら、脇内に電話してキャバクラに行ってみようかなとも思ったが、エレベーターで降りた時にペイチャンネルの自動販売機が目に入り、千円札をつっこんだ。財布の中からお札がなくなった。

このエントリーをはてなブックマークに追加
Pocket

ページ: 1 2 3 4 5