「抑揚を持たない宇都宮誠弥と、彼のモラトリアムな年」(第5回)藤原達郎

2017.08.29

広川のインターで降りたはいいものの、「道案内するから」と言った太田は一時間近く前から居眠りしており、インターから大学までの道がわからない。とりあえず備え付けのナビを頼りにそれらしい方向へ車を走らせた。

道幅はせまく、田んぼと、雑草の茂った荒地と、灰色の建物がばかりだった。重そうな雲が増え、空も灰色だった。あとはぽつんぽつんと住宅とビニールハウスと個人商店。のどかである。色あせた選挙の看板と真っ赤なパチンコ屋の看板が隣り合わせに立っていた。背の低いカーブミラーが多く、赤の目玉しかない信号はずっと点滅している。駐車された車の軽トラック率が高い。この一帯はほぼ農家なのだった。国道に出ても一車線しかない。前を走る原付バイクを追い抜くこともままならなかった。こんな田舎にワークショップを受けに来る参加者がどれくらいいるのだろう。

ナビが示す位置に到着しても大学が現れない。同じ道を三回行ったり来たりして、ようやく「Q州O谷大学」の小さな看板を見つけた。看板を曲がり細い道を進むとようやく校舎らしき建物が見えた。駐車場が見当たらず、宇都宮の運転技術ではUターンもできないので、とりあえず細い道を奥へ奥へと進み、校舎の外側をぐるりと周ると、芝生を敷き詰めただだっ広いスペースに出た。これは校庭なのだろうか。芝生敷きの校庭を初めて見た。高速道路のサービスエリアのような風情を醸した建物が校庭に面しており、屋外の木製のテラスにはアルミの丸テーブルとイスが置かれていた。ブリックパックの自動販売機が二機並んでいる。おそらく食堂だろう。校舎とつながっていた。休日なので学生の姿はまばらだった。隅に車が規則的に停められており、どうやら校庭が駐車場も兼ねているようだ。宇都宮は駐車も苦手で、隣の車から一台分あけて停めた。

太田はまだ寝ていたので、ウマのマークのついた太田のカバンを勝手にあさり、チラシを取り出した。チラシには「physical integration」とタイトルが書かれていた。フィジカル インテグレーションである。ルビ振ってあるから読めるだろう。太田には集中力がない。副題は「身体とメディアの融合」だった。「体操とパソコンのコミュニケーション」だとかなりダサいが、「身体とメディアの融合」と言うとかっこ良かった。

チラシをひっくり返してウラ面を見ると、太田の先輩らしき人物のプロフィールと写真が載っていた。

[アキラ・キタムラ]
インタラクティブテクノロジーを学び、パフォーマンスへと応用する研究のため、演劇、現代音楽、コンテンポラリーダンスなどとのコラボレーションを多数行い、身体とメディアテクノロジーの関係を探る実験を行っている。Q州O谷大学インタラクションデザイン研究室在籍。佐賀県出身。

写真の人物はものすごく大柄で、体重は軽く100kgを超えていそうだった。

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