「抑揚を持たない宇都宮誠弥と、彼のモラトリアムな年」(第5回)藤原達郎

2017.08.29

宇都宮にはインタラクティブもコンテンポラリーもちんぷんかんぷんで、何と何を融合させようとしているのかさっぱりわからなかった。あと佐賀出身であることをなぜ最後に強調したのかもわからなかった。が、自分や太田がこのワークショップに参加するのは場違いであろうことは確信した。太田が寝ている間に車を出し、柳川でウナギでも食って帰ろうと思ってエンジンをかけた時、太田のケータイが鳴った。太田が飛び起きた。着信音は「天城越え」だった。

「はいっ、ハザマース!」ハザマースは、太田が言うところの「おはようございます」だった。
「ハザマース!ハザマース先輩!…あ、もうそんな時間ですか!…はい、サーセン!…もう始まりますか!…始めますか!はい!…サーセン!…サーセン!…はい、サーセン先輩!」サーセンサーセンうるさかった。
「…サーセン!…今ですか!今…ちょっと、…今ちょっとお待ちください!…今ここどこ?」太田は小声で宇都宮に聞いた。
「大学の駐車場」
「あ、もう、大学です!…はい!駐車場です!…サーセン!すぐ行きます!はい!サーセン!すぐ行きます!はい!すぐです!サーセン!すぐ行きます!はい!サーセン!サーセン!はい!サーセン!すぐです!サーセン!はい!サーセン!はい!サーセン!すぐサーセン!はい!はい!サーセン!はい!サーセン!…えっと駐車場です大学の!サーセン!すぐ行きます!オナシャス!オナシャース!」太田が電話を切った。「おい、先輩、怒ってっから、すぐ行くぞ」
「…あ、うん」

あの写真の人物に怒られたら自分もサーセンサーセン言うだろうなと宇都宮は思った。おとなしく車のエンジンを切った。

この大学にはパフォーミングアーツに関する学科があり、照明、音響、映像などの設備を備えた専用のホールを持っていた。校舎とは別棟になったその建物に入ると、薄暗いロビーに長机と椅子が置かれていて、丸い女が座っていた。そんなに太っているというわけではないのだが、全体的に丸かった。

「ワークショップの参加者の方でしょうか」
「あ、はい」
「お名前は?」
「太田と宇都宮です」

丸い女は机に置かれた名簿にチェックを入れ、「参加費を徴収いたします」と言った。見た目とちがい、話し方はしゃきっとしていた。太田と宇都宮は7000円ずつ支払った。
「もう始まっております。そちらの廊下をまっすぐ行って突き当たりがホールです」
「はい」太田がにやにやして言った。顔が気持ち悪かった。

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