「抑揚を持たない宇都宮誠弥と、彼のモラトリアムな年」(第6回)藤原達郎

2017.09.06

ホールの一角に、10メートル四方くらいの白い床があり、背の高い照明機材が狙っていた。ここがステージになるのだ。時折「チェックしまーす」というスタッフの声が響き、ホール全体が暗くなり、ステージのみが照らされた。スピーカーからはノイズのような音や、アンビエントな音が流れた。そして床に映像が映し出された。スクリーンの役割を果たしているのだ。スクリーンは床と、ステージ奥の壁にも設置されていた。各グループが順番に、映像の出力テストや演技とのタイミング合わせをステージで行った。

宇都宮は映像制作のソフトを扱ったことがないので、イラストや画像などの素材を作る担当になった。本当は絵心もないのだが、素材も作れないとなるとただの足手まといので、黙っておいた。

フーとトゥーンと宇都宮はまず「風俗店のめくるめくサービス」の映像に取り掛かった。直接的な表現にするのは気が引け、抽象的なイメージ映像を作ることにした。インド映画のラブシーンで、男女が水辺で踊り狂う、あれだ。

「マシャ、プリーズ、ローズ、フォト、メニー、メニー」フーが言った。バラの画像をたくさん集めてくれと言っている。
「オーケー」
「アイ、ウォッチドゥ、ムービー『アメリカンビューティー』」アメリカンビューティーは20年くらい前のアメリカ映画で、ケビンスペイシー演じるさえないおっさんが、娘の同級生に欲情する話だ。宇都宮も見たことがある。さえないおっさんの妄想の中で、娘の同級生の周りにバラが咲き乱れ、おっさんを誘惑する。
「ローズ、イズ、シンボル。バージン、ラブ、etc…」バラは処女性などの象徴らしい。フーはよく知っている。「ローズ、イズ、マッチング、アット、ディス、イメージシーン!」

フーは急にモニターの陰に隠れるようにし「バット、ミンソ、イズ、ノット、バージン」と小声で宇都宮に言った。「야,그렇지?튼」と言い、トゥーンを見てにやにやした。トゥーンが照れた。どうやら、トゥーンとミンソは付き合っているようだ。なぜか宇都宮も照れた。
どっちにしろ風俗店と処女性はマッチしないのではないかと宇都宮は思ったが、イメージの内容はフーのあふれんばかりのエロスに任せることにし、バラの画像素材を集めた。

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