「抑揚を持たない宇都宮誠弥と、彼のモラトリアムな年」(第6回)藤原達郎

2017.09.06

宇都宮はチキン南蛮、サナリはスパゲティを注文した。フー達はメニューを指して、ハンバーグやグラタンを注文した。店員も彼らに日本語が通じないとわかったようで、メニューを指しながら「ライス、セット?」などと聞いていた。最後に宇都宮が人数分のドリンクバーを注文し、「ドリンク、セルフサービス」と言って立った。フー達も立ち上がった。サナリは腕組みをしたまま「マシャ、コーヒー」と言った。

宇都宮がサナリのコーヒーをしぶしぶ注いでいると、トゥーンがとなりに来て「ウイ、ハブ、ノー、タイム」と言い、困ったような笑顔を浮かべた。時間が足りないということだろう。「ヤァ」と宇都宮は言った。~しなければならない、は確かマストで合ってたよな、と学生時代の知識をフル動員し「ウイ、マスト、ペースアップ」と宇都宮は答えた。トゥーンがうなづいた。

ご飯を食べながら、宇都宮とサナリは彼らの質問責めにあった。「仕事は何をしているのか」「趣味は何か」「兄弟はいるか」「結婚しているのか」などなど。宇都宮もサナリも、たどたどしいながら英語で答えた。しゃべることに一生懸命で、日本語でやりとりする時よりも素直に言葉が出るのが不思議だった。周りの客がちらちらこっちを見ていたが、気にならなかった。サナリは既婚者だった。マジか、と宇都宮は思った。子どももいるらしい。
支払い時にレジで案の定もたつき、宇都宮は「彼はハンバーグセットの分です」などとフー達と店員の間を取り持った。その役回りがイヤではなかった。

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