「抑揚を持たない宇都宮誠弥と、彼のモラトリアムな年」(第7回)藤原達郎

2017.09.13

窓ガラスを叩く音で目が覚めた。シートを起こして座り直すとサナリに蹴られたケツが痛かった。フーとトゥーンとミンソが車内をのぞき込んでにやにやしていた。三人とも眠そうだ。遅くまで作業していたのだろう。時計を見ると10時前だった。夢のせいでミンソの顔は直視できなかった。ばたばたと荷物をまとめて車の外に出た。いい天気だった。

宇都宮は昨日風呂に入っていないので身体がべとべとした。髭も伸びていた。ホールの事務室にいた丸い女に「シャワーはありますか?」と聞いたら、「あります」と言われ、「お借りできますか?」と聞いたら、「できます」とのことだったので、コンビニでタオルとカミソリを買い、シャワーを利用した。今の所、この丸い女にノーと言われたことは一つもない。車で寝ていたのもばれているだろう。シャワーを浴びながら身体をひねって尻を見ると紫に変色していた。

タオルを首にかけてホールに入ると、サナリが寝転がって柔軟体操をしていた。昨日より頭頂部の髪がピンとしていた。セットしている。「おはようございます」と言うと、「あぁ」と言われた。「ケツ、痛くないですか?」と聞くと、「痛えよ」と言われた。「俺もです」と言った。どのグループも、映像班は眠そうでパフォーマーは元気だった。太田カツキは二日酔いでテンションが低かった。何時まで飲んでいたのか知らないが、アキラ・キタムラの顔色は変わらなかった。

フー達が昨夜作った映像を見せてくれた。ミンソが化け猫に変身する映像で、撮影したミンソのバストアップが大写しになり、モーフィングして徐々に三毛猫の顔と混ざり、中途半端に混ざった所で「ぶにゃあ」と鳴いた。キャッツに出てくる人みたいだった。眠いからみんなテンションが低くて、「ふふ、ふふふ…」と不気味に笑った。

宇都宮が作った素材もフーに見せた。おっぱい、セクシーな下着、水着美女、全裸美女、金髪美女、美女、女子高生、女子中学生、女子、熟女、スカートと足、くちびる、半開きの口、べろ、よだれ、矢印、鎖骨、トイレのマーク、剣、杖、桃太郎、東京タワー、南極3号、ふんどし、壺、π、∞、銃、にんじん、だいこん、ゴボウ、きゅうり、じゃがいも、ピーマン、カレー、ペットボトル、弓矢、69、バナナ、人体模型、がいこつ、地球、海、ブルースウィルス、月と太陽、ハートのマーク、音符、神、レイバンのサングラス、ガーターベルト、イカ、筋肉、ネクタイ、ハイヒール、盆栽、リンゴ、フォーク、ワニ、貝、サーターアンダギー、要潤、モザイク、棒、マリネ、ミネストローネ、ズッキーニ、パスタなど、描いたイラストは80点近くあった。途中から朦朧としてエロいのかなんなのかよくわからないものまで描いていた。

フーは「オーケー」と言い、親指を立てた。急いで編集作業を行った。宇都宮もわからないなりに、フーやトゥーンから言われたことを手伝った。時間が飛ぶように過ぎた。宇都宮達のグループ以外はステージでのリハーサルを終えたようで「君たちが最後だよ」とアキラ・キタムラにせっつかれた。昼飯を食っている暇はなかった。

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