「抑揚を持たない宇都宮誠弥と、彼のモラトリアムな年」(第8回)藤原達郎

2017.09.20

発表会が始まった。最初にアキラ・キタムラがステージに立ち、趣旨の説明をした。

「えぇ、インタラクションデザイン研究室のキタムラです。このたびはお集まりいただきまして誠にありがとうございます。チラシにも書いておりますが、このワークショップは『身体とメディアの融合』を目的として開催いたしました。韓国から◯◯大学のセオ教授にもご協力いただき、そちらの生徒の方々にもご参加いただいております。えぇ、昨日の昼前からスタートしまして、日本からの参加者と韓国の学生とで、パフォーマンス作品をいくつか創作しました。短期間かつ、言葉の壁を抱えながら創作されたパフォーマンスのため、つたない表現もあろうかと思いますが、それらの負荷が作品に良く影響した部分もたしかにあり、また違った視座を与えてくれたのではないかと個人的には手応えを感じております。どうぞ最後までごゆっくりお楽しみください」

客席が暗くなり、ステージだけが照らされた。まずは太田カツキのグループからだった。太田は発表会の前にレッドブルを飲んでいた。朝より顔色はよかった。誰もいないステージにテトリスのようにバラバラと文字が落ちてきた。リハーサルで見た時より文字が大量だった。そこに太田がスマホをいじりながらひょこひょこやってきた。太田がスマホを操作すると、床に落ちた文字が奥のスクリーンへ飛んで行き、LINEの画面のように文章が組み上がっていた。太田は韓国の女性とやりとりをしている設定のようで、相手役の女性もステージに出てきてスマホを操作し、スクリーンに韓国語の文章ができあがった。やりとりは次第にエスカレートし、二人ともスマホを投げ捨て、床から文字を拾ってはスクリーンに投げ、写植のように文章を作っていった。最後に太田が「付き合ってくれ!」と言いながら文字を投げ、女の子が「미안!」と言いながら文字を投げると、「うわーん!」と泣きながら太田が壁に激突し、太田の人型が残った。太田の恋は実らなかったようだ。女の子が投げ捨てたスマホが鳴り、電話に出ると、韓国語で楽しそうに話しながら女の子はステージから去っていった。太田が起き上がり、お辞儀をした。客席から拍手が起こった。宇都宮も拍手した。おもしろかった。戻ってきた太田からスマホを見せられた。画面にひびが入っていた。さっき投げ捨てたから。

次のグループはプロジェクションマッピングに挑戦していた。最近よく見かける、建物などに映像を映し出す技術だ。床がぽこぽこと浮き上がったり、ベニヤ板に扉の映像が映され、マジシャンの格好をした男が扉を開けるとハトが飛び出たりしたが、マジシャン役の男のどや顔がなんだか鼻についたのと、時間が足りなかったのかいまいち盛り上がりに欠け、残念だった。

宇都宮達の番になった。フーとトゥーンがコンピュータをプロジェクターにつなげて、ミンソは深呼吸をし、サナリはいつも通り腕組みしていた。宇都宮はちょっとしか出ないし、コンピュータの操作もしないくせに、緊張で吐きそうだった。

サナリがステージに出た。白シャツにスラックスという格好だった。ため息を吐き、上司から説教されたことを思い出していた。サラリーマンという設定なのだ。スピーカーから宇都宮が録音した上司の声が流れた。「1教えたら、10察するだろう普通?なんで1から10まで言わないと理解しないんだよ」と、以前青木と行ったお好み焼き屋で聞いた愚痴をセリフにした。他にも宇都宮が言われて腹の立ったことをセリフにして吹き込んだ。宇都宮は根に持つので、そういうのをよく覚えていた。

説教に合わせて、ぐにゃぐにゃとサナリが舞った。宇都宮は勝手に悲しみダンスと名付けていた。手足をだらんだらんと揺さぶり、よろめいて倒れそうになったりする。なんなら倒れて転がる。怒りをぶつけるだけの説教をくらって気持ちが萎えていく感じがよくわかると思った。

サナリが倒れて動かなくなると、反対側からミンソが出てきた。モンローのポーズをとり、「アハーン」と棒読みで言った。何度見ても萌えた。サナリが顔を上げ「何ですか?」と言うと、ミンソが「우리 좋은 거 하자」と言い、サナリに手を差し出した。「え、ありがとうございます」とサナリがミンソの手をとって起き上がると、「따라와」とミンソが言い、サナリを引っ張った。サナリは「え、何ですか?」とよくわからないままについて行った。

二人がステージをぐるりと歩く時、奥のスクリーンに大学からファミレスに行く途中の夜道が映った。昨日トゥーンがスマホで撮影していたのだ。しかし辿り着いた先はファミレスではなく風俗店だった。

ミンソがまた「우리 좋은 거 하자」と言うと、照明がピンク色になり、スクリーンにバラの花びらがひらひら舞った。めくるめくサービスのシーンだ。バラはどんどん積もり、床のスクリーンはバラで埋もれた。激しい音楽が流れ、サナリが踊り狂った。素早く手足があちこちに伸び、カクカク曲がったかと思うとゆっくりうねり、急に高く飛んだりした。肉体的快楽に身悶えているのだ。宇都宮は勝手に快感ダンスと名付けていた。ミンソはスローモーションでステージの周りを歩いた。サナリの振り付けだ。バラの形も色も歪んで、幾何学模様がちらちらとスクリーンを覆った。サブリミナル的に宇都宮の描いたおっぱいや金髪美女などの落書きがばばばっと現れては消えた。フーがかっこ良く処理してくれた。

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