「抑揚を持たない宇都宮誠弥と、彼のモラトリアムな年」(最終回)藤原達郎

2017.09.27

「バカ!伝わっちゃったじゃないか!」男は宇都宮をはたいて旗をひったくった。「おい!今のは違うぞ!まちがい!右に旋回!右に旋回ー!」と言うとばばばっと機敏に旗を振った。再度汽笛が鳴った。合図が伝わったようだった。

「…まったく、とんでもないな、お前…」手旗の男はぶつぶつ文句を言いながら去っていった。

宇都宮は男にはたかれた頭をかきながら海を眺めた。船がゆっくりと右に旋回していた。大声を出したので喉が痛かった。ジュースを買おうと思ったが、財布は車の中だった。夕方の便を待つのはやめた。ゲロまみれの太田と待つのは気が滅入る。それより、小倉に帰ったら韓国のガイドブックを買いに行こう。海外にはまだ行ったことがない。パスポートも作らないといけないな。パスポートってどれくらいお金かかるんだろう。ネットで調べよう。とりあえずレンタカーの返却とハムスターの世話だ。めんどうだなーー宇都宮は来た道を引き返した。潮の匂いにまじってガソリンの匂いがした。もうすぐ秋だった。

終わり

【参考文献】
宇都宮誠弥「Flag」
北中「physical integration」

【韓国語翻訳】
北村加奈子

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