咀嚼伯爵(第3回)

2021.02.23

【12】痛い風

4月。
サクラサク。
うん、咲いたさいた。なんとか咲いた。
ひとつ年下の同級生ときゃーきゃー騒ぎ、ゆるい感じの美術サークルにも入会。
商店街の小さなレストランでアルバイトも始めた。

合格から入学までのひと月半、ちょいハード目の節制を重ねた。
運動量を増やし、野菜を自分で調理し、結構健康的に頑張れた。
「ガリガリさせろ!齧らせろ!」
「今夜はこれでお納め下さい。」
伯爵が騒ぐ夜はティッシュを噛んだ。
6キロ減の52キロ。
目標、48キロ。あとひと頑張り。

…と思っていた5月の半ば。
明け方、左足首のにぶい痛みで目がさめた。
捻挫?
昼間のことを思った。
サークルの先輩達とバドミントンをしていて軽くひねったのだった。
湿布を貼って再びベッドへ。
しかし痛みは疼きとなり、左足親指のほうへ移動した。
足首から親指の付け根が赤黒く腫れ上がっていた。

病院の開く9時を待って近所の整形外科に。
捻挫の炎症が広がったのだろう、とのことで湿布をもらい帰宅。
しかしなんだこの痛み疼き脈打ち。
「骨折?」と心配になり、再度同じ病院へ。
腫れは更にひどくなり、もう足をつくことも出来ない。
掴める手すりはすべて掴み、ケンケンで院内へ。
受付の女性がすぐに車椅子を準備してくれた。
ク、車椅子?
いやでもまじで助かった。
座っても痛いので、痛む左足を右足の膝に乗っけた。
日本史の教科書に出ていた如意輪観音「半跏趺坐」のようだと思った。
お、まだこんなこと覚えてるな、とも思った。

レントゲンを眺め、首をひねるイケメン老紳士の先生。
「捻挫じゃない。まして骨折ではない」
では?
「紹介状書くので、今からここに行ってみてくれる?」
差し出されたメモにあったのは…県内でも有数の腎臓専門病院。

「ツウフウですね。」
Too Who??
思わず往年の外国人コントの手振りが出た。
机周りにある本の背表紙に、いくつもの「痛風」の文字があるのをみつけた。

銀縁眼鏡の銀行員風の腎臓先生が一枚の写真を取り出した。
「これは尿酸。金平糖みたいに尖ってますよね。普通はおしっこで流れ出るんですが、これがたまりすぎて身体の関節にひっかかると、このトゲトゲが炎症を起こすんです」
ほえー。

「でもね、」
はい。
「19歳で女子で太ってなくて痛風って、研究報告出したいくらいですよ。」
はぁ。
「お酒飲む?」
え?
「激しいスポーツは?」
いえ。
「偏った食生活は?」
…いえ。

「くれぐれも覚えてて欲しいのですが、悪いのは足ではなくて腎臓です。今後は生活に注意をしながら、一生薬を飲むことになります。」
ほほほほえー。

理由は明白。
ここ一年半の食生活で腎臓が悲鳴を上げていたのだった。
更に調べると、女性に痛風患者が少ないのは、女性ホルモンが尿酸の排出をサポートするからだと言う。
勝手に月経を止めたり再開させたりして来たツケだとすぐに理解した。
発作を止める薬が効き、痛みは3日ほどで収まった。
「尿酸値の魔女」。
身のうちに、またひとり新たなキャラクターが登場した。
「チョコレートをかじろう!ケンタッキーを食いちぎろう!」
伯爵が叫ぶ。
「おもしろい!ならばどんどんこの金平糖を作り、全身の関節にひっかけてやろう!」
魔女が笑う。
あぁ。あぁ。あぁあああぁぁぁあ。

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