咀嚼伯爵(第3回)

2021.02.23

【14】ロッピョウ

「おもしれぇな!」
その先輩はロッピョウと呼ばれていた。
パートのおばちゃんたちの噂話から推察すると、多分、齢は私の3つ上。
大学を休学してバイトを掛け持ち、お金を貯めてはあちこち旅しているらしい。

「この前はコシキ島に行ってたらしいよ。」
「どこ?」
「なんか、九州の、このへん。」
架空の日本地図の下のほうを指しておばちゃんAが笑う。
「あ~あ!」
おばちゃんB・Cの相槌はいつも適当。
いいなぁ、解放されてて。
身体も太り放題で。

ロッピョウ。
もしかして韓国とか中国の人なのかな。

翌週のランチタイム、先輩とシフトが一緒だった。
退勤時、何気なくタイムカードの名前が見えた。
島本正一。
しまもと・しょういち?
「じゃ、お疲れ!」
「あの!」
声が出た。
「え。」
「…なんでロッピョウなんですか?」
「ここ。」
先輩は自分の名前を指すと、自慢のクイズを出す小学生のような顔をした。
「え?え、ヒント!」
私はすかさず食い下がった。
「もう?」
「待てないタイプで。」
先輩は指で空間に「正」の字を書いた。
「学級委員の選挙とかで、」
「あ、得票!いちにーさんしーご、」
「と、ろく。」
正一、で6票。ロッピョウ。

「6票じゃどんな選挙も落選だよね。」
「でも一応、候補には選ばれてるんですよね。」
「そう。そして6票で落選。」
慣れた感じで軽妙な説明が続く。
そこから商店街の端っこの自転車置き場まで一緒に歩いた。
おとうさんが野球の金田正一さんのファンだから、という由来らしい。
「おもしれぇね。」
横柄なお客さん、いきなりのシフト変更、
先輩はどんなアクシデントにもそう言って立ち向かう。
文字通りおもしろい人だった。

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