さよならオブラージャ(第1回)

2021.02.25

 ……そこに、懐かしい顔を見つけた。かつて知っていた男がいる。二十年は会っていないだろう、でも覚えていた。
 向こうはまだ私に気づかずスマホを覗き込んでいた。
 「ユウキじゃなかと?」と声を掛ける。彼はスマホからサッとこちらに視線を寄越してニッとほっぺたが上がったけれど、話しかけられた相手が誰だかわかっていないみたいだ。「春香だよ、中学の時まで一緒だった」
 あぁ、と伸びて、ブワッと白い息を吐き出した。「おぉおぉ、春香ちゃん。久しぶりだな」息の白がたなびく。
 「今帰ってきたと?」と一歩近づいて尋ねる。「東京やったっけ?」彼もこちらへ一歩。
 「うん、今着いたところでさ、腹減ったなって思ってたところだった」ニカッと笑う。そうそう、普段気難しそうな顔してるのに、瞬時にクルクルといろんな表情を見せる人だった。顔が好きとか、そういうのじゃなかった。それでもとても魅力的な表情をする。
 しばらく近況を語り合っていた私たちの背中は、寒空にどんどん縮こまる。ふたりとも足踏み。
 「春香ちゃん」コートの右ポケットからスマホを取り出しながら彼はこう切り出した。
 「もし時間が大丈夫なら」
 「私も考えてた」すぐに、しかしゆっくりと私は返事した。「でも私、友達とさっきまで呑んでたお店は追い出されて。忘年会シーズンだから、混んでるかも」「そうかー」
 例えば、ラーメンでも良かった。もう少しお酒は飲みたかったけれど。
 うーん、と眉を寄せていたユウキは、また速やかに目を大きく見開く表情へと着替えて「ま、アテはないけど」と言ってベンチに置いていたいくつかの紙袋を持ち上げた。「何かあるでしょ」
 「そうね、行こうか」私たちは繁華街へ向かって歩き出す。
 そこら中にあるデジタルサイネージには、今日もスペースシャトル打ち上げ事故の続報が流れていた。

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