さよならオブラージャ(第4回)

2021.02.28

 初めて訪れた隣町の神社で春香と並んで参拝を済ませる。その後、春香を駐車場に待たせて、俺はひとりで親父に頼まれた神札を買い求めに行く。この神社まで足を伸ばしたことは、知り合いとの鉢合わせの回避に都合がいいだけではなかった。往路からほど近い場所にシティホテルがあることを、ここへ向かう助手席で検索できていた。買い物を済ませて駐車場に戻り、春香を誘う。彼女は少しばかり考える素振りをして「うーん」と、どっちともつかない言葉でうなずいた。
 水色の車は走り出す。助手席で買ったばかりの神札を膝の上に出し、携帯で写真を撮る。その写真を妻に送信。親父の役に立っているところの報告だ。
 春香は、俺の神札撮影会の始終をチラチラとみていたが、何も言わないで車を走らせる。
 もう目の前に、周囲の風景には不釣り合いの建物が見えてきた。蒼いランプも灯っている。「まさか、知り合い居らんよね」笑いながら大仰な暖簾をくぐってホテルの駐車場へ。このビランビラン、車に傷つけやしないのだろうか?都会なら、車の小傷が嫌なら別のホテルを探せばいいが、この田舎では唯一の逢瀬会場だ。客も選べない。きっと十年後もこの設備のまま変わることはないだろう。

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